誰が為に鐘は鳴る

作品集: 最新 投稿日時: 2010/03/20 23:59:36 更新日時: 2010/03/20 23:59:36 評価: 12/12 POINT: 54 SPPOINT: 48 Rate: 1.22
 ドンドコ ドンドン ドコドンドン。

命蓮寺に朝六時を知らせる音色が流れる。
毎日朝六時と正午には星が太鼓の音色で教えてくれるのだ。

「朝ですね」

自室で写経をしていた白蓮は作業を中断して外へと出る。
朝日がまぶしかった。もう春を感じるようなそんな朝日だ。

「あ! おはようございます!」

ひと仕事を終えてきた星が汗をタオルで拭きながらやってくる。
今日も白い歯がまぶしい。

「すっかり様になってきたじゃない」

そう言って白蓮が満足そうな表情を浮かべた。

「流石にずっと続けてましたからね」

そう言ってピンクのタオルを首にかける星の姿はどう見ても毘沙門天の云々とはほど遠い。
それもそのはずで彼女は白いタンクトップに紺のレギンス姿という非常にアクティブな格好していたからだ。彼女はいつもの服じゃなければスポーティーな女子高生と見間違えられてもおかしくない。ボーイッシュなのである。

「しかし、いつになったら鐘は直るのでしょう」
「おそらく、今までこの幻想郷には寺と言うものが存在していなかったから、あんな大きな釣鐘は職人さんも扱った事ないのよ」

と言いながら夜食用のたまり醤油せんべいを齧る白蓮。

「あの……私ももらっていいですか?」
「どうぞ。どうぞ」

朝の静かな寺に二人がせんべいを貪る音がこだまする。爽やかな朝にはそぐわないがそんなの二人にとってはお構いなしなのである。

 鐘が壊れたのは、今から一ヶ月くらい前の事である。
実は命蓮寺の鐘は元々音の響きが悪く、白蓮はそれをずっと気にしていた。
そこで内側を里の100円ショップで買ってきた河童製のドリルで削って厚さを薄くしたり、撞木を更に巨大化させたり、超人化した白蓮が力の限り鐘を叩いてみたりと様々な工夫を重ねたが一向に音が良くなる気配はなかった。

そして困り果てた挙句、橦木の鐘を叩く部分に厚さ数センチの鉄板を瞬間接着剤でくっつけて超人白蓮が鐘を叩いてみたのだが、それまでの度重なる改悪のせいで耐久度が極端に下がっていた鐘は竹を割ったように割れてしまったのだ。

「……あれは悲しい事件だったわね……」

白蓮はそう言いながら緑茶をすすった。

「まったく、鐘がない寺なんて、カレーの入ってないライスカレーよ!」
「それはただのご飯じゃないですか……」

すかさず星の冷静なツッコミが入る。彼女はよくポカは起こすもののどんな時でも冷静だ。何より白蓮に忠実である。故に白蓮は彼女を頼りにしていた。
こうして彼女がボケた時の素早いツッコミもお手の物である。

「そう言えば鐘はどこに修理を頼んだのかしら?」
「里で一番の職人ですよ。私が手配しました」
「そう、なら安心ね」

白蓮は相変わらずせんべいを食べている。星は、もうすぐ朝ごはんだというのにそんなに食べて大丈夫なのだろうか。と思わず心配になる。
なんて思ってるそばから彼女はすべて平らげてしまった。

「そうだ、星。話があるんだけど……」
「なんですか?」

白蓮は口の周りを愛用のハート型刺繍のハンケチで拭きながら星に告げる。

「今日、その職人とやらに会いに行きましょう」
「え?」
「興味があるのよ。どんな方が鐘を直しているのか」
「でも、私たちが行ったら邪魔になるのでは……?」
「いいえ。あの鐘は私たちのもの。持ち主が自分のものの様子を見に行って悪い事はないはずよ」
「なるほど、その通りですね。それじゃ朝食が終わり次第お出かけいたしましょうか」

そして皆で朝食を済ませた後、二人は身支度を整えると寺を一輪に任せ、職人のもとへと出発する事にした。



 寺は里とはさほど離れていないので別に急ぐ必要もない。二人はのんびりと歩きながら目的地へと向かう事にした。

「それにしてもいい天気ですね。洗濯物も一輪に頼んできましたし、今夜は温かい布団で眠れそうね」

などと白蓮が伸びをしながら言うと、星は笑顔を浮かべた。

「そうですね。この分だと今日は気温も上がりそうですね」

ふと白蓮は道端に小さな青い花が咲いてるのを見つけた。

「あら、もうホシノヒトミが咲いているなんて、すっかり春ね」

それを聞いた星が不思議そうな顔をする。

「あれ? これはヒョウタングサですよね?」
「この花には色々別名があるのよ。一般的な通り名はイヌフグリだけど、他にもテンニンカラクサとか、ルリカラクサとか呼ばれてるのよ。その中で私はホシノヒトミと呼ぶことにしてるの。だってその方がかわいいでしょ?」
「なるほど。……流石白蓮は物知りですね」

などと話をしているうちに二人は里へとたどり着いた。

「それじゃ案内任せるわね。星」
「はい。お任せください!」

星の案内で白蓮は職人のもとへと向かう。
途中、駄菓子屋に寄り白蓮は好物だと言う都こんぶやら、うめしばやら、ごんじりやらを袋いっぱいに買う。いわゆる大人買いというものである。
僧としてその行為はいかがなものかと星は思ったが、白蓮が「これでこの店に貢献することが出来たし、私も欲しい物を買う事で満足する事が出来た。だからこれでいいのです」と言うので、ならいいやと言う事にした。
星にとってのものさしのバロメーターは白蓮が満足するか否かなのだ。彼女が満足するならそれでいいのである。

そして、二人は職人の元へとたどり着いた。
職人は里の一角に工房を構えていた。
工房からは金属を叩くような音が響いてくる。

「活気があっていい工房ね。んむんむ……それにしてもこのお菓子美味しいわ。これ名前なんて言うのかしら……ええと、ごんじり? へえ、ずいぶんハイカラな名前つけるものね」

さっき自分で好物と言っておきながら名前も知らなかったのかと、星は一瞬呆れてしまうが、ずっと今まで封印されていた身なのだから、色んな事に興味を持つのも当たり前だなと自分の中で結論づける事にした。

そして白蓮がふぐした駄菓子を食べ終えてから、二人は工房を訪ねる事にした。
工房に入ると威勢のいい女性の職人が二人を出迎えてくれた。

「いらっしゃい! 見学かい?」

「ええ、私がお願いした釣鐘の状況を見に来たんですけど」

星の言葉を聞いて女性は「おぉ!」と声を出して手をぽんと叩く。

「ちょっと此処で待っててくれ」

そう告げると女性は奥の方へ姿を消した。
一方、白蓮は興味深そうにあちこちにある工具を眺めている。

「この工具はどうやって使うのかしら」

そう言いながら彼女は何やらトラバサミのような工具を持ち出す。
すかさず星が言う。

「聖。あまり下手にいじらない方がいいですよ?」

「ねえ、星。これ何だと思う?」

「え? トラバサミだと思いますけど」

「星もそう思うのね。じゃあきっとこれはトラバサミなのね」

そう言って嬉しそうな仕草を見せる白蓮。そんな彼女の様子を星は少々呆れ気味な表情で見ていた。
と、その時、先程の職人が帰ってくる。

「待たせたね! お客さん方の釣鐘はこっちだよ! ついておいで!」

二人は彼女に案内され工房の裏手に来る。すると小さな小屋が立っているのが見えた。どうやらもう一つの工房らしい。

「まあ! 素晴らしい……っ!」

その小屋に入った途端、白蓮が思わず感嘆の声を漏らす。
それもそのはずで釣鐘が以前よりも立派な造形で小屋のど真ん中に鎮座していたのだ。さながらまるで、御神体といった様子で神々しさすら感じさせるほどだった。

「まだ細部の仕上げが残ってるから出来上がりは2.3日後ってとこかな」

そう言いながら彼女は釣鐘に手を触れさせる。

「ふむ、あの真っ二つの鐘をよくここまで……」

星も流石に驚いた様子で釣鐘を見つめていた。

「人間の技術も馬鹿に出きたもんじゃないだろ? 妖怪さん」
「えっ?」

星は彼女の言葉に思わず耳を疑った。

「あんた。妖怪だろ? 言わなくてもわかるよ」

そう言って職人はにかりと笑みを浮かべる。

「心配しなさんな。例え依頼主が人間だろうと神様だろうと妖怪だろうと、客にはかわりない。客の要望に応えるのが職人って奴さ」

彼女の言葉を聞いた白蓮が思わず手をぱちんと叩いて叫んだ。

「素晴らしい!」 

その声の大きさにあっけに取られている二人を尻目に白蓮は目をキラキラさせながら続ける。

「この里には妖怪を受け入れる人も多数いると聞きますし、妖怪たちも普通に買い物へ来ると聞いていましたが、どうやらその話は本当だったようですね! 妖怪を受け入れる人間がいると言う事自体十分すごいのですよ」

白蓮の言葉を聞いた職人は照れたような笑みを浮かべる。

「まぁ一部の悪い妖怪は、妖怪退治の専門家さんが倒してくれてるからってのもあるけどね。もっとも人間だって似たようなもんさ。みんなが善人じゃないし、みんなが悪人じゃない。おあいこ様って奴だよ」
「そう! そうの通りなのですよ! 人も妖怪も大差はないのです!」

すっかり意気投合した二人はそれからしばらく人間と妖怪の在り方について語りあった。その様子を星は遠目で眺めていたが、そのうち日が暮れかけてきたので
二人の間に割って入った。

「聖、そろそろ時間ですよ」
「あら、ごめんなさい。もうこんな時間なのね」
「おっと! つい話に花が咲いちゃったね。それにしても面白い思想だったよ。いつか実現するといいね。妖怪と人間が本当に別け隔てなく生活できる世界ってのがさ」

そう言って彼女はにかりと笑う。

「ええ、そのために私は日々勤しんでいるから、それが私に課された言わば使命。あなたが職人として全うするなら私もまた僧侶として全うする。お互い頑張りましょうね」
「今日は僧侶様のありがたいお言葉も聞けたしいい夢が見れそうだよ」

そして「それでは」と分かれようとした瞬間、白蓮が彼女を呼び止めた。

「ごめんなさい。そう言えばまだ名前を聞いてなかったわね。聞いてもいいかしら?」

すると彼女は答えた。

「きみさ」
「きみ」
「そ、きみだよ」

そう言ってきみと名乗った職人は、くすりと笑った。





 数日後、妙蓮寺に釣鐘が戻る。
そして釣鐘の復帰を祝ってその日、寺では身内だけで宴が繰り広げられた。
一方太鼓叩きから開放された星だったが少し名残惜しそうにしていた。

 次の日の朝、早速、鐘が鳴らされる。その音色は白蓮が今まで聞いた事ないくらいに重く神々しくそれでいて慈悲深そうなそんな音色だった。更にその音色は幻想郷全てに響き渡るのではないかと言うくらい長い余韻を保っていた。
きっとこの音色は、きみの所にも聞こえたことだろう。
そう思った白蓮は、お礼の念を込め彼女の家の方に向かって手を合わせるのだった。

きみに幸あれ!
みなさんこんにちはー!!
コンペですね!
プチコンペですよ!
初めてなんですね。
いやーわくわくしますね!
この中から名作がまた生まれると思うともう今から居ても立ってもいられないです!
みなさんも是非自分だけのお気に入りの作品を見つけてくださいね!!
それではコンペと言う作家の大宴会を一緒に心ゆくまで楽しみましょう!
海鼠の胎児
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/03/20 23:59:36
更新日時:
2010/03/20 23:59:36
評価:
12/12
POINT:
54
SPPOINT:
48
Rate:
1.22
1. 通常ポイント5点 お題ポイント4 すっとこどっこい ■2010/03/21 13:41:15
読みましたので感想を。

感情豊かな作品ですね。白蓮の嬉しそうな、知識を得るたびに喜ぶ姿が目に浮かぶようです。
それにさくさくと読み進めることができたので、その点も良かったかな、と。
ですがお題のほうが弱い気もしました。最後辺りで「きみ」と「くすり」が出てきただけ、でしょうか? すくなくとも自分にはそこだけしか出てきてないな、と思いました。

白蓮の感情表現や音の表現が映える、良い作品でした。
2. 通常ポイント6点 お題ポイント4 yunta ■2010/03/21 17:14:00
執筆お疲れ様でした!読了感が爽やかな作品ですね。
少し世界観が自分の思っていた部分と違った(里の文化レベル等)のですが、白蓮と星だけの会話でコンパクトにまとめられているのでそこまで気にはなりませんでした。
お題は、「くすり」についての要素が感じ取れなかったので私の中ではお題ポイントは少々低めにさせて頂きました。
3. 通常ポイント4点 お題ポイント6 じろー ■2010/04/01 13:57:44
ところどころ場面が移り変わりますが、その場面をもっと描写したほうがいいと思いました。何か貼ってあるだけでものさみしい印象があります。例えば、ホシノヒトミの描写にしても情景を細かくし、白蓮の心情もつきつめるとその花の名前だけでかなり味の濃いものがかけると思います。
そのほか、職人と意気投合したくだりがあっさりなため、淡々とした文章に見えてしまいました。

お題の使い方ですが、最後のギミックに使いたかったのはわかったのですが、職人の名前は少々強引かもしれないという感想があります。
4. 通常ポイント4点 お題ポイント2 八重結界 ■2010/04/02 17:27:27
聖さんが目を輝かせている姿が目に浮かびました。
5. 通常ポイント4点 お題ポイント2 ぶるり ■2010/04/02 17:59:54
細かい文章運びに中々真似したくなるような何かがありますね
6. 通常ポイント5点 お題ポイント3 飛び入り魚 ■2010/04/02 21:31:48
 何気無い日常の風景が丁寧に書かれていました。
 SSの全体の、のんびりとした空気が白蓮さんとマッチしています。
 ただしこれといった山が無い為、印象に残りにくい作品かもしれません。
7. 通常ポイント3点 お題ポイント2 静かな部屋 ■2010/04/02 22:12:35
【内容のこと】
台詞が読みづらい。句読点の位置などに、もう少し気を使うと、ぐっと読みやすくなるのではないかと思います。
【お題のこと】
「きみ」はねーよ。いやまじで
8. 通常ポイント5点 お題ポイント4 時計屋 ■2010/04/02 22:59:47
文章のテンポが良く、全体の雰囲気も朗らかで、気持ちよく読み終われる短編でした。
オチの意味はちょっと分かりませんでしたが。
9. 通常ポイント5点 お題ポイント3 K.M ■2010/04/02 23:21:45
ライトな感じで、文章が読んでいて楽しかったです。
10. 通常ポイント2点 お題ポイント3 ねじ巻き式ウーパールーパー ■2010/04/02 23:49:43
内容について:
仲のいい聖×星。ほのぼのした雰囲気がつたわってきました。ただ、それ以上の物がすこし伝わってこなかったかもです。
構成についてなのですが、たとえば「ホシノヒトミ」のくだり、あるいは「トラバサミ」のくだり。仲良く会話する彼女たちを書きたかったのだと想像しますが、物語の筋に関係ないこれらのイベントが効果をあげていたかというと、正直疑問がのこりました。
これらは伏線、もしくはガジェットとして有効なものだけを採用し、本筋を強調したほうが物語の完成度は高くなったと愚考します。 

お題について:
【音】2点。物語の動機付けとしての鐘で問題ないと思います。
【きみ】1点。オリキャラの名前であるというのが安直すぎたように思います。
【くすり】これに関しては、読解力がなくてごめんなさいなのですが、よく分かりませんでした。
11. 通常ポイント8点 お題ポイント9 Ministery ■2010/04/02 23:57:55
お題の使い方が実に巧妙。
読み終わって思わず唸ってしまいました。
12. 通常ポイント3点 お題ポイント6 ワタシ ■2010/04/03 00:28:07
鐘の音というお題の使い方が良かっただけに、全体的な抑揚の薄さと他のお題の使い方が惜しいかなと思います。
もっと色々組み込めたんじゃないかなーという面では、もったいない。
名前 メール
評価 通常ポイント
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