グレートマザー輝夜

作品集: 最新 投稿日時: 2010/03/20 23:58:27 更新日時: 2010/04/04 01:40:23 評価: 10/10 POINT: 64 SPPOINT: 52 Rate: 1.62
 草木も眠る丑三つ時、永遠亭は穏やかな静寂に包まれていた。

 うさぎ達や虫さえも寝静まった今であるが、縁側で杯を交わすものが二人いる。

 ふんわりとした月明かりに照らされて、輝夜と永琳の肩が並んでいた。

 中秋の爽やかな風を受けて、輝夜は透き通るような黒髪をたなびかせた。



「月が、綺麗ね」



 霞の無い、それでいて柔らかい光を届ける満月が空に浮いている。

 「満月は見る者を狂わせる」というのは、この美しさにあるのかもしれない。

 しかし、輝夜の言葉に永琳は疑問を持ってしまった。



「月とは美しいものじゃない、輝夜」

「もちろん、そうよ。いつだって綺麗。でも、今日はまた格別じゃない」

「ああ、そういうこと。今日、だったわね」



 旧暦八月十五日、今日は二人が出会って幾千年という記念すべき日である。

 あの日、満月ならぬ満地球を見ていたことを輝夜は思い出していた。



「今なら、地球を見て美しいと思えるわ」

「住めば都、という言葉もあるくらいだし、ね」

「永遠亭を都にしてくれているのは、永琳のお陰よ。ありがとうね」

「ふふ、そんな改まらなくてもいいのに。せっかくの記念日なのだから」

「そうね、記念日なのだもの」



 二人は笑い合い、もう一度杯に酒を注ぎ合う。

 杯を手にして、永琳は音頭を取った。



「では。二人の出会いに、乾杯」

「ぐぎゃろ! ぎっぴゃろ、ぼろろん。ほげはっぴゅー!」



 永琳は気絶した。



「なんてこった、永琳が死んじゃった! 私のひとでなし!」





  ――――――――――――――――――――――





「ぬりゃろ……。ぴろぱらぐりゃりゃん!」

「うう……。止まって! 止まりなさいよ!」



 満月の夜から三日が経った。

 あの日から度々、輝夜の体から気味の悪い音が鳴っている。

 まるで、洞窟にいるネズミの鳴き声が響いて何重にもなったような甲高い音である。

 輝夜はその音に精神を蝕まれているような心地であった。

 何より、この音の発信源が自分の体であるというのが薄気味悪い。

 永琳に頼ってみるも、原因不明だった。そもそも病気ですらないとのことだ。

 輝夜がまた一つため息をついた頃に、部屋の襖が開かれた。



「姫、例の音に対する特効薬をお持ちしました」

「お、さっすが永琳! やっぱり作れないことないじゃない! がんばればできるんだから!」

「いえ、実は作ったわけではなく……」

「おーっす。具合悪いんだって? どれどれ、そんな風には見えないけど」



 永琳の背中から、小さな体に大きな角の萃香がぴょこんと飛び出てきた。

 萃香は宴会の主宰になることも多く、顔が広い。

 交友関係をほとんど持たない輝夜でさえも見知っているほどであった。



「あら萃香、お久しぶり。いやね、具合が悪いというより変な音が……」



 そう言った途端、またもやあの意味不明な音がぴーちくぱーちくと鳴った。



「……ほら」

「あんた、死なないからって蛙でもいっぱい食ったんじゃないだろうね?」

「そんなわけないでしょ! ……で、永琳。何で萃香が?」



 永琳は萃香の頭を撫でながら答えた。



「ええ。薬というのは他ならぬ、彼女なのですよ」

「そうそ。私があんたの体の中に入れば、原因が分かるかもでしょ?」

「か、体の中ですって!? ……ど、どこから入るの!?」

「口からに決まってんでしょうが! 私は点鼻薬になんてなるつもりはないよ!」

「よかった、てっきり座……。いやいや、それなら早いとこ見てもらおうかしら。お願いね」



 かくして、あの忌まわしい音の正体を探ることになったのだ。

 調査しやすいよう、輝夜は仰向けで安静でいるように言われた。

 萃香は自らの髪を数本抜き取って、小さな分身を生み出した。



「ささ、これを飲んで。ぐぐっと」



 萃香の手のひらに、小さな萃香がわらわらと動いている。

 元気よく走り回る者に、分身同士で楽しそうに会話する者。

 不安げに輝夜を見つめている者さえいた。



「……飲めと。いや、これ飲みにくいでしょ!?」

「水か何かがほしいのですか?」

「お酒がいいよ。分身が喜んでくれる」



 特効薬こと萃香を飲むのを戸惑っていると、またもや腹の中から音がし始めた。



「ごぎゃらご、ごぎゃらご、ごぎゃらごりゃ!」

「ええい、うっとおしいやつめ! 消えてしまいなさい!」



 元はと言えば、この気味の悪い音を断ち切るのが目的であった。

 輝夜はその音から解放されようと、思い切り萃香を吸い込んだ。



「ふぇやっくしゅ!」



 輝夜の鼻からヴォルケイノ。萃香が鼻からヴォルケイノ。



「わ、私の分身を鼻水塗れにするなあ!」





  ――――――――――――――――――――――





 輝夜の体内には、つるりぷるんと健康的な桃色の世界が広がっていた。

 ただ、床も壁も脈に合わせて震えているものだから、どこか生々しい。

 ミニ萃香はその柔らかい肉の上をのん気に歩いていた。



「そう簡単に原因なんて見つけられるのかねえ」



 何となしにつぶやいた瞬間、周囲の空間がびりびりと震えた。



「ぱらりらぱらりら! ひゃっはー、俺の走りは腸内一位だぜ!」



 体の奥から、下品に叫ぶ声が響いたのであった。

 輝夜がうるさく思うほどの声である。体内に入ればしっかりと聞こえて当然だ。

 後はその声を辿っていけば、正体がつかめる。

 やる事も決まってしまったので、萃香は一層のん気に声の元へ歩いていった。



「ぱらりら……。ああん? 何だお前は、どこの馬の白血球だ!」



 見れば、輝夜そっくりの生命体がそこにいた。

 ただ、輝夜に似てはいるものの、体のあちこちからひょろひょろと毛が伸びている。

 その輝夜らしき物体は「ぶうん」と言いながら、いかにも馬に乗ってますといわんばかりの中腰姿勢で走っていた。



「白血球なんかじゃないよ。鬼さ、鬼の萃香。で、あんたは一体何なのさ」

「私かい? 見れば分かるだろう。カグモネラ菌さ! 腸内一の走り屋、カグモネラ様さ!」



 どうやら菌らしい。菌が腸内暴走族をやっていた。空気馬に乗ってぶいぶい言わせているのだろう。

 何だかよく分からくなったので、萃香はさっさと任務を終わらせて一杯やりたくなった。



「そうかいそうかい。で、さっさとあんたを潰して帰ってもいいかねえ」

「はあ!? んだよ、私が何か悪いことでもしたっていうんか?」

「うるさいって苦情が来てるんだよ。あんたの住んでる輝夜ってやつから」

「うるさいからって殺菌かよ!? ひっでえ話じゃねえか」



 菌にしては正論であった。

 夜中、酔った勢いで弾幕勝負になることは幻想郷でもよくある話である。

 それを迷惑に思う者も少なからずいるのだが、苦情を言いに来て終わるのが普通だ。



「すいません、もう夜も遅いので静かにしてくれませんかね。さて、殺します」



 なんてことが度々あれば、さすがに幻想郷は殺伐としすぎである。

 だが、現実問題として輝夜は迷惑を被っているのだ。

 萃香も簡単に引き下がるわけにはいかなかった。



「でもさ。あんた、菌じゃん。妖怪でも人間でも無ければ、獣ですらないよ。ただの菌じゃん? 殺されても文句言えないよ、きっと」

「それは差別だと思いまーす」



 寺子屋で少しばかり知恵をつけた子どものような言いっぷりであった。

 菌の癖に妙に偉そうにされて、萃香は何だか少しずついらいらしてきた。

 とっとと任務を終わらせようと思った時には、拳から炎の塊を生み出していた。



「まあま、ここはあんたの大好きな白血球にでも出会ったと思って、勘弁してよ」

「ちょっとお前、まじかよ! たんまたんま!」



 燃えたぎる手の平大の炎を、にっくきカグモネラ菌に投げつける。

 しかし、菌も腸内一位の走り屋だけあって素早かった。

 逃げ惑う菌の体にかすらせるだけという結果になった。



「あ、いっけない」



 スピードが乗りに乗った炎の弾は、もう誰にも止められない。

 そのまま腸壁にダイレクトアタック。



「ひっぎゃあああ!」



 雷鳴のように轟く輝夜の声が、体内に響き渡った。





  ――――――――――――――――――――――





「……って分身が言ってた」



 あの後、ミニ萃香は輝夜の体内での攻撃は危険と判断して戻ってきた。

 ただ、輝夜は体の中を燃やされた上に戦果無しということで、ご機嫌斜めになってしまった。



「あんたねえ、人の体なんだからもちっとデリケートに扱いなさいよ! 死ぬかと思ったじゃない!」

「思うんだ!? でもさあ、私が思いつく方法は全部あんたに痛い思いさせちゃうんだ。どうすりゃいいのかねえ」

「期待しないで聞くけど、どんな殺菌方法があるっていうのよ」

「超高密度燐禍術で焼き殺すか、大江山悉皆殺しでぶっつぶすか、ミッシングパープルパワーで……」

「あんたはいちいちパワフルすぎなのよ。……永琳、いい方法はないの?」



 結局、頼りになるのは専門的な知識を持つ者である。



「おそらくそのカグモネラ菌とやらは、姫の体内で幾千年もの年を経て高度な知能を得たものと考えられます」

「うわあ、長生きなんてするもんじゃないね」

「しかし、菌を自称しているとはいえ、何者かもよく分かりません。抗生物質や殺菌剤が効くとも限らない」

「ま、まさか打つ手なしって言うんじゃないでしょうね」



 これから毎日正体不明の声に悩まされるかもしれない。そう思うと輝夜は背中がぞっとしてしまう。

 一瞬恐ろしくなった輝夜であったが、永琳が笑顔を見せたのですぐに安心した。



「いえ、さすがに殺虫剤でも撒いておけば、ころりでしょう」



 体内で毒ガスをばら撒くというのも気が引ける話であるが、体の中からミッシングパワーよりはましであった。



「じゃあ、適当に毒でも吸っとけばいいのね? どこにあったかしら……」

「それ、姫が苦しむだけですって! カプセル剤を作りますから、後は萃香にまかせましょう」



 毒ガスカプセルを萃香に運ばせて、菌のいるところで開いてもらう。

 こうすれば少量で効果的な駆除ができるし、何より輝夜が苦しまない。

 大役を任された萃香は、然るべき日に備えて酒盛りをすることにした。





  ――――――――――――――――――――――





「こんなもんで、ほんとにあいつは死ぬのかねえ」



 翌日、毒ガスカプセルを手にしたミニ萃香は、またも体内を歩いていた。

 体内の冒険はまだ二回目であるが、靴の裏に伝わるべとべととした感触にも慣れてきた。

 体の奥から、やはり声が聞こえてくる。

 前回と同じ要領で歩を進めていくと、やはり見覚えのあるやつがいた。



「私、あなたと一緒にいるだけで幸せ……」

「私もだよ、ヤゴコレラ……。君の細胞膜は本当に美しい」



 一匹、見覚えのないやつがいる。

 増えてた。二匹に増えている上に、何だかいちゃついていた。

 ヤゴコレラと呼ばれた方は、外見が永琳そっくりであった。

 二匹は熱く潤った眼差しで見つめ合っている。



「……ふーん」



 萃香は霧状に変化し、菌達を観察することにした。



「私、あなたと一緒に細胞分裂したい!」

「ああ、私だって、このヌクレオチドを君に分けてあげたいぐらいだ!」



 菌だって恋をするらしい。放っておけばいくらでも思いの丈をぶつけ合うんじゃないか。

 そう思った萃香の予想は裏切られた。

 突如、ヤゴコレラが悲痛な叫びをあげたのだ。



「なら、どうしてなの!」



 ずっしりと重くなった空間に、輝夜の心音だけが鳴り響く。

 沈黙の後に、ヤゴコレラは涙ながらに話し始めた。



「ずっと一緒でいようって約束したのに、どうして……」

「お前を危険な目に合わせるわけには、いかない」

「どんなに危ないところでも、あなたについていくよ。その覚悟はできているんだから」

「お前を死なせたくないんだよ! 死ぬのは私だけで十分だ!」



 今度は、カグモネラの怒声である。

 自分の体内でもこんな劇が演じられているのかと思うと、萃香は頭が痛くなった。



「……この前、殺されそうになったんだよ。私の命を狙う者がいるらしい」

「そ、そんな!?」

「私と一緒だと、お前も殺されるかもしれない。分かってくれ」

「そんな気持ち、分かりたくない」



 手と手を二匹は絡ませる。

 

「残された私の気持ちも考えないで! 死ぬ時は私も一緒なんだから!」

「ば、馬鹿やろう、お前……!」

「だから、あなたについていく。食道から直腸まで、どこまでも!」



 必死にすがりつくヤゴコレラであったが、カグモネラは冷たくあしらった。



「悪いな、やっぱりお前を死なせるわけにはいかない」

「そ、そんな!」

「ついていくなら、勝手にしろ。だが俺は、お前を全力で守りぬいてやるんだ」

「カ、カグモネラさん!」

「ヤゴコレラ!」

「……お楽しみのところ、悪いんだけどさ」



 話を聞いていると、どんどん頭が痛くなってくる。萃香はたまらず姿を現した。

 早くこの茶番を終わらせたくて仕方がなかったのだ。



「お、お前はあの時の鬼! なんて空気が読めないんだ!」

「この方が菌殺しなの!? カグモネラさんは私が守る!」



 カグモネラをかばうように、ヤゴコレラはずずいと前に出た。

 が、当のカグモネラは後ずさり。



「すまん、私ちょっと食中毒起こす系の仕事を思い出した……」

「ちょっと、あなた!?」



 腸内一位の走り屋だけあって、逃げ足も素早かった。

 その足を止めたのはやはり、ヤゴコレラの声であった。



「あなた、私を守りぬくんじゃ……げふう!」



 何か出した。ヤゴコレラ、盛大に体液を口から吹き出した。



「うわあああ、ヤゴコレラ! 病弱で薬代を払うために私が金を出していたけれど段々生活が苦しくなって二匹ともどもしゃっ菌取りに追われて命からがら逃げ惑う日々ではあったけれど長いべん毛と美しいミトコンドリアがチャーミングでいつも私の心の支えだったあのヤゴコレラがああ!」

「あんたら、出来損ないの時代劇そのまんますぎて気持ちが悪いんだけど?」

「この、ヤゴコレラには手を出すな!」

「出さないよ。馬鹿馬鹿しくなっちまったよ」



 二匹の大根芝居の演劇を見ていると、萃香はため息が出るばかりであった。

 紫から「外の世界の芝居は面白い、笑いが止まらない」という話を萃香は聞いていたが、実際に目の前で見ると乾いた笑いしかでなかった。



「お前、助けてくれるのか!?」

「私のことはどうでもいいから、その子を早くなんとかしてやればいいんじゃん?」



 お芝居の世界に引き込まれて、萃香は小っ恥ずかしくなって霧と化した。

 何だかんだと言いながら、二匹に手を出せない自分がちょっぴり悔しい。



「鬼の癖に鬼になりきれないって、いやだねえ」



 自分に皮肉を言いながら、萃香は輝夜の口を目指した。





  ――――――――――――――――――――――





「今日こそ、ちゃんと殺してくれるんでしょうね」

「いや、その必要はないね。いい方法があるんだ」



 輝夜は焦っていた。

 あの不気味な音が日に日に大きくなってきているのである。

 うさぎ達も輝夜を気味悪がって近寄らない。寂しい思いを抱いたまま床に入ると、腹の中からあの忌まわしい音である。たまらない。

 前回、萃香は菌を殺さなかったということで、彼女を心の底から信用することもできなくなっていた。



「いい方法って言ったって。一体どうするってのよ」

「河童からいい物もらってきて、ね」



 萃香の指先に、豆粒のような機械がちょこんと乗っていた。



「小型カメラってやつだっけ。これを使うと、体の中に何があるのか見ることができるんだ」



 永遠亭には医療用のモニターがある。これに映像を送れば、輝夜は自分の体内を覗くことができる。

 河童と月の技術を融合させて初めてできることと言える。



「なるほど、これで菌が死ぬ瞬間を見ることができるのね」

「まあ、見てなって。それじゃ、お邪魔するよ?」



 既に三回目である。慣れた手つきでミニ萃香を輝夜の口に放り込んだ。



「全く、今まで散々な思いをしてきたんだから。菌とやらの顔が見てみたいわ」

「ごぎゃっぐ、くれれれ……」

「ふん。この音とも今日でお別れなんだから」

「ふふ、今日はお祝いですね」

「永琳、モニター付けてくれる? 分身が何か言ってる」



 砂嵐が映った後、モニターは真っ赤になった。



「ちょっと永琳。これ壊れてるんじゃない?」

「いえ、今映っているのは姫の腸ですね。……あら?」



 モニターが腸壁のあちこちを映し、萃香の顔を映し、くるくると映像が切り替わる。

 カメラの使い方がよく分かっていないようだ。

 ぐらぐらと映像が乱れて、最後は食卓を映し出した。



「姫、これって本当に……」

「話にあった通り、私達そっくりね」



 輝夜と永琳そっくりの生命体が、食卓を囲んで楽しそうに会話をしていた。

 その声は、体外の輝夜にも聞こえている。



「らるぼれる。れろったぶるん」

「鬱陶しいわね。私に似てる癖に、迷惑ばかりかけて」

「……輝夜。あのさあ」



 いつもの元気はどこへやら、萃香が申し訳なさそうに俯いている。



「私、こいつら殺せないよ。あんただって、嫌な思いしてるんだろうなって思う。だから、殺さなくちゃって思ったよ。でも、駄目だったよ」

「あんたは人が良すぎるのよ」

「そうかもね。でもさ。こいつらを見てよ。ひょっとしたらあんたも分かってくれるかなって思って、用意してきたんだ。楽しそうだろう? こいつら」



 モニターを見ると、菌が新たに増えていた。

 二匹の足元に、うさぎのような耳を生やした菌が何匹もすりよっている。

 ペットを飼っているらしかった。



「あら、可愛い」

「ちょっと永琳? 確かに、可愛いかもしれないけどさ?」

「お願いだよ、輝夜。こいつら、私を恐れてさ。必死で生きてきたんだよ。今、やっとこんな風に落ち着いて暮らしてるんだ。……何とか、ならないかな?」



 モニターは、うさぎ菌達を抱えて幸せそうに談笑する二匹を映し出していた。

 モニターから音声は聞こえないが、その暖かな笑い声はしっかりと輝夜に届いていた。



「ぐれら、ぐれら、ぐれれれら」

「これ、笑ってる声だったのね」



 何を食べているやら分からない。何を話しているやら分からない。

 それでも輝夜は、あの一つの家庭が永遠亭の仲間であるかのように思えたのだ。

 自分の体の中に、生き生きとした世界が広がっている。

 だから、輝夜は自分のお腹を何度も優しく撫でた。



「萃香。カメラはそのままにして、帰ってくるように言いなさい」





  ――――――――――――――――――――――





 輝夜は、新世界の神となった。

 リモコン装置の付けられたカメラは、今や輝夜の体内を縦横無尽に駆け巡っていた。

 そのカメラは体内のあちこちにいる菌を映し出すのである。



「へえ。あいつら、弾幕も撃てるようになったんだ」



 カグモネラはアダム、ヤゴコレラはイブといったところか。

 その二人を起点に無数に増殖した、頭脳の良い菌達は独自の文明を作り上げていった。

 輝夜は慈しむように、その世界を見て回っているのだ。

 世界に干渉できる点と言えば、ご飯を食べると菌達が寄って集まるといったところか。

 自分の体内にある世界を見守り、支えていく。

 輝夜にとってはこの上なく新鮮で、限りない娯楽であった。

 ただ、あまり激しく運動をすると地震が起きるということで、一層引きこもりがちになってしまった。



「ぐぎゃろ! ぎっぴゃろ、ぼろろん。ほげはっぴゅー!」

「そう、今日も無事に一日が終わったね」



 以前はただ不気味でしかない音は、今や世界が発信するメッセージとなっていた。

 怒ったり、泣いたり、笑っていたりする声が腹から鳴るたび、輝夜は優しく世界を撫でるのであった。





  ――――――――――――――――――――――





 ある朝のことであった。

 にとりは散歩をしていると、見たこともない機械に出会った。

 こちらを睨むレンズが、きらきらと光っている。

 不思議に思って、にとりはそっと近づいてみた。

 すると、その機械はモーター音をうならせて、遠くへ逃げていってしまった。

 どうやら、レンズの下にタイヤがついていたらしい。



「おしいことをしたなあ。何だったんだろう、あれ」



 次なるチャンスがあることを胸に、にとりは空を見上げた。

 その空は今日も変わらず、美しい桃色をしていた。
私の息子も姫様の体の中を探険したがっています

――

結果発表後の追記 雑感

読んでくださった皆様、そしてこんぺの投稿者に運営様、ありがとうございました。
楽しいひと時を送ることができました。

さて、まずは自分の作品の感想を手短に。
描写が薄いって致命的だなーと思ったり。
特に心理描写って本当、苦手。山場ではそれがストレートに。
そして後書きは勢いで投稿した後に激しく後悔することになるのでした。 ああ。

――――

コメントへの返信

>絹氏
本当は現実世界(?)にいる輝夜も実は体内で……。とかしたかったのですが、収集がつかなくなりそうで断念でした。

>すっとこどっこい氏
自ら弁明するのは何やら怖いものがありますが、一応、きみは「気味の悪い音」、あるいは「不気味な音」ということにしていました。
意外と今回、「気味」が少なかったなーと思っていたり。

>じろー氏
後書きについては反省してまーす
音はあくまでセリフだからいっかーというノリでやってしまったのでした。
だがしかし、仰るとおりなのでした。

>ワタシ氏
South Parkネタは悪ノリの典型例として現れてしまったという。
シュールと狂気は何とか磨きをかけたいのでした。

>八重結界氏
Twitterにて何やら好評なつぶやきを見て八意氏がごとくショック死しそうになりました。
なんなんでしょう、これ

>ぶるり氏
勢いで書いたら後悔するぞ! という悪いお手本なのでした。
書き終わって結果発表までずーっと寝る前にふと「あれ駄目だよな絶対印象悪いよな」とか考えていたのでした。

>静かな部屋氏
そうなんです眼球世界説なんですとええそうなんです。
そんな見栄を張りたくなるほど知識は無かったのですが、無限ループ的な何かを意識してはいました。

>時計屋氏
褒められなれていないもので、どう反応していいのか困ってしまうのです。
「そうですか! やったー!」と、どうしても手放しで喜べない。
でも、うれしいのです。心の底があったかくなったのです。

>K.M氏
むしろ最終戦争ぐらい起こしたほうが面白そうだーとちょっぴり後悔してしまうのでした。
なんだかんだ言って色々と膨らませたい作品でした。

>文鎮氏
モットーは狂気なので、嬉しい限りです。
皆に分かりやすい狂気を目指したい一方で、もっとぶっこわせ! という自分がいる一方で。
そんなことするよりもっと磨くべきところはあるだろうに、という話なのですが。


繰り返しになりますが、この作品に触れていただいて本当にありがとうございました。
こんぺのお陰で更なる上達を目指そうという意欲がちくちくとわいてきました。
飛び入り魚
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/03/20 23:58:27
更新日時:
2010/04/04 01:40:23
評価:
10/10
POINT:
64
SPPOINT:
52
Rate:
1.62
1. 通常ポイント7点 お題ポイント3 ■2010/03/21 06:41:58
しゃっ菌取りは笑った。
がしかし、これはメタ的要素を含んだとても面白い話だったように思える。
どっかで聞いたことある、この地球は宇宙という生命の細胞の一つではないだろうか、とか何とか。まぁ冗談だけど。
体内に宇宙があるというのは、すごく幻想的で幻想郷的だなぁと思いました。
2. 通常ポイント6点 お題ポイント7 すっとこどっこい ■2010/03/21 13:31:28
読みましたので感想を。


思い切ったギャグテイスト、でしょうか?
最初のちょっとシリアスはどこへやら、見ていくたびに笑いが堪えきれませんでした。
せっかくシリアス見れると思ったからしんみりした曲を聴いていたのに、吹いちゃったです。いい意味で。

お題にかんしてですが、「きみ」が解らなかったのは自分の読解力不足でしょうか?
もしかすると話に出てきた病原体のことでしょうけれど。
しかし、まさか「音」をお腹の中から聞こえる音にするとは、さらに「くすり」をまさか萃香にするとはホントに面白いアイデアでした。
それだけではなく、まさか話の中心が輝夜のお腹の中とは、驚きです。笑いが止まりませんでしたが、工夫にビックリする作品でした。
3. 通常ポイント5点 お題ポイント4 じろー ■2010/03/27 16:16:12
最後ので台無しです。あとがき自重してください(笑)

怪音の描写がストレートすぎているのが、気にかかりました。漫画なら効果音としておもしろいのですが、文字だけの文では、かなり浮いて見えてしまうのが難点です。

ラストに音を使ったオチを持ってきてほしかったかなぁと思いました。
4. 通常ポイント10点 お題ポイント7 ワタシ ■2010/03/28 02:48:44
ケニーが死んじゃった!

シュール全開の作風なのにそれを受け入れて楽しむ輝夜の超ポジティブな性格が
遺憾なく発揮されていて、存分に笑わせていただきました。
5. 通常ポイント9点 お題ポイント7 八重結界 ■2010/04/02 17:25:00
なんだこれ。なんだこれ。
6. 通常ポイント3点 お題ポイント2 ぶるり ■2010/04/02 18:03:46
この世界観結構面白かったです

最後のにとりのシーンが読み込めなく、意味不明であったこと。
あと、後書きが酷い、この辺りが悪印象。
7. 通常ポイント4点 お題ポイント4 静かな部屋 ■2010/04/02 21:05:21
【内容のこと】
 ……眼球世界説?
壺中の銀河あああああああああああああ!
てか後書き!全年齢向けコンペで何を言ってるんだ!

【お題のこと】
「くすり」じゃなくてもいいような気がしました。使わなきゃいけない以上、仕方ないですが。
「音」も、小道具的な使い方が良かったです。
あれ?「きみ」は?気付かなかっただけかな?
8. 通常ポイント9点 お題ポイント9 時計屋 ■2010/04/02 22:57:46
まずお題の使い方が見事。
三つともきっちり組み込んで、かつ、SSとして自然で面白いというのは見事だといわざるを得ません。
文章はとてもテンポが良く、読みやすいように洗練されたもので、ギャグSSのお手本のような文体でした。
総じて質の高い、良い短編でございました。ありがとうございました。
9. 通常ポイント5点 お題ポイント4 K.M ■2010/04/02 23:17:49
確かに蟻を眺めてたりするのは楽しいですが……そのうち最終戦争とか起こしそうな事考えると自分の体内にはいて欲しくないですなこれは。
10. 通常ポイント6点 お題ポイント5 文鎮 ■2010/04/02 23:26:51
まさにミクロの決死隊。何故か狂気に向かって突っ走っているように感じました。
あとがきにどう突っ込みを入れようか悩むところです。
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