ラップ音を聴きながら

作品集: 最新 投稿日時: 2010/03/20 23:41:51 更新日時: 2010/03/20 23:41:51 評価: 11/11 POINT: 48 SPPOINT: 43 Rate: 1.22
 いらっしゃい。私はルナサ・プリズムリバー。
 この館は私たち姉妹の家だから、存分にくつろいで行って欲しいな。

「なになに、お客さん?」

「へえ、珍しい」

 こらお前ら、もう少し接客態度ってものを考えなさい。
 ……失礼。妹たちも、きみの事を歓迎しているみたい。




 そう。きみは今仄暗い、けれど賑やかな洋館の中にいるの。
 薄気味悪い、なんて言わないで欲しい。もちろん人気のない建物が、しんとした雰囲気を醸し出していれば、それは怖い。けれど、ここには私たちがいるから大丈夫、楽しい時間を約束させてもらうわ。




 それにしても暗すぎる?
 おっと、それは失礼。私達には灯りなんて必要ないもので、ついつい忘れてしまうのね。
 ランプなら、ほら。壁に沢山掛かってる。

 全部いっぺんにお点けしよう。
 はい、パチン!

 どう? 便利なものでしょう。私たちは「手足を使わずに楽器を演奏する能力」を持っている。でも、愛用のヴァイオリンしか操らない普段とは違うんだ。きみは特別な観客だからね。

 ……だから、怖がらないでって言ってるじゃない。




 私の姿が見えるかな。
 シックな黒に、フリルや何やらで装飾を付けたステージ衣裳。
 円錐のスカートは、こういう時には少しわざとらしく見えるかもしれないね。
 あと、胸見るの禁止。
 これがいつものルナサ・プリズムリバー。代わり映えがしない、とか言われると困るな。それとも、見慣れる程に見てくれてありがという、と言うべきかしら。




 さて、きみは既に知っているかも知れないけど、私たちが何物かについて一応説明しておくわ。
 私たちみたいなモノの事を、騒霊(ポルターガイスト)と人は呼ぶ。
 この郷では少しばかり名の通った楽団でね。普段は演奏会詰めのスケジュールで、あっちこっちを飛び回っているの。
 騒々しさの権化といわれる。そして私達もそれを誇りにしてるんだ。

 ポルターガイストというのは元々、現象の名前なの。
 夜が来ると家のあちこちが鳴り響き、置いてある物が宙を舞う。人が寝ているにも拘らず、朝起きたらベッドが移動させられていた、なんて話もあるわね。




 さて、メル。お茶は入ったかしら?

「え、何それ聞いてなーい」

 こらこら。

「冗談よー♪」

 言いながら現れたメルの手では、ティーポットが何事もなく湯気を立てていたのだった。
 まあ、当然よね。
 こっちは妹のメルラン。イメージカラーは白、私の闇人格キャラという事になってるわ。
 え、普通黒が白の闇人格だって?
 そのうち分かるわ、いつだって、破滅をもたらすのはメルの方だって。




 さて、メルと、そのまた妹、赤い色をしたリリカの手によって、お茶会は滞りなくセッティングされていく。
 そう、これが。私たちが、プリズムリバー三姉妹。
 「現象」なんていう形のないモノではない。置いてある物にはちゃんと触れるし、自分たちの意思を持っている。

 ポルターガイストってね、一説には感受性の強い少年少女の、超能力が本人も知らない間に発現したものなんだって。
 そう言われるようになったのは、ポルターガイスト現象が起こるとき、決まって少年少女が側にいたから、らしいわよ。眉唾? 確かにね。
 でも、少なくとも私たちに対しては、それは真。
 レイラ・プリズムリバー。
 私達を生み出した、素晴らしい力と感受性を持った少女の名前よ。




 さて、そろそろこの館にも慣れたかしら。

「お茶が良い加減よ」

 おう、済まないメル。
 きみも飲むといいよ。
 ……そんな恐る恐るでなくてね。

 どう?

 本日のお茶は、お洒落なアールグレイ。
 気取らない、柑橘風味のフレイバーティー。

 こんなのが出てくるとは思わなかったかな。
 こんな古めかしい洋館だし、出てくる物全部が格式ぶってると、そんな風に思うね、普通は。

 ちなみに、フレイバーティーにさらにミルクを流し込む妹の事は、全力で無視して構わない。
 え、きみもそうしたい? ……そう、いいけど。




 他所に出ていくのも楽しいけど、やっぱり騒霊の本分は館に出没する事だと、そう思ってる。
 3人の姦しい喋り声、ラップ音。
 これを聴けるお客は、そう多くない。
 さっきも言ったように、騒霊を、騒音を生み出すには、感受性による超能力が要る。
 私たちを生み出したのはレイラじゃないのかって?
 レイラが見ていた私達と、きみが見ている私達、同じものだという証明は出来るのかな。
 ちなみに、レイラはもうこの世の人ではないよ。




 たとえば、同じ事。
 霊を呼び出してラップ音を聴くのも。
 文章を読んで、その情景を頭に描くのも。

 つまり、受ける力なのよ。

 バーチャルとリアル、幻想と現実の話。
 またその話か、って?
 幻想郷ではありふれた話題。確かに。

 頭の中で描いたものが全て本当の事と一緒なら、現実で汗を流してお金を稼ぐのも、這いつくばって幸せを求めるのも、全部無駄な事になってしまう。
 確かに、そうね。
 頭が幸せになればいいんだったら、そういうクスリでもやってればいい、ってね。




 話題が一つでも、それについて違う考えを持っている者の話を聞くのは、無駄じゃないと思うわ。
 一応ね、私が思う、違いって奴はあるの。
 終わった後に、また現実に戻って来られるか。
 そうでないと、幻想とは呼ばない。

 こんな事を考えるのは、私たちが音楽家だからかもしれない。
 前衛音楽家たちは、音楽の殆どあらゆる決まりをぶち壊した。
 そんな彼らにも無くす事が出来なかったのが、音楽に始めがあって終わりがあるという決まり。
 奇抜な始め方、終わり方は、色々と試されたけどね。
 時間的に区切られていないものは、グダグダになるのを避けられない。そういう簡単な話だと思う。簡単なのに、誰も変えられないの。




 このマドレーヌ、リリカが焼いたのよ。

「えっへん!」

 はいはい、偉い偉い。

 焼いたのは、ついこの午前中。
 あんまり凝ってないけど、でも美味しいでしょう?
 多少手抜きでも、焼き立てのサクサク感には敵わない。
 まあ、そういう事なんじゃないかな。

 そんな訳だから、クスリになんて頼らない事。
 幻想は、一時の幻想だけで充分だわ。
 どんな幻想も、それが当たり前になってしまえば幻想ではなくなってしまうのだから。

 え? きみはヤク中なんかじゃない。それは失礼。




 要するに、どういう事かっていうとね。
 この洋館、切り取られた異世界の音楽堂。
 話し声、笑い声が即興の旋律。
 新鮮な香りの紅茶に、焼き立てのマドレーヌ。

 やっぱり、何が言いたいのか分からない。そう。

 つまるところ、ね。

 文字の羅列をなぞって、きみ自身が感受した、この仮想的なお茶会がどう映ったかって、そういう事。
きみ=読者

と解釈しました。
リコーダー
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/03/20 23:41:51
更新日時:
2010/03/20 23:41:51
評価:
11/11
POINT:
48
SPPOINT:
43
Rate:
1.22
1. 通常ポイント5点 お題ポイント3 ■2010/03/21 05:54:00
後書きがちょっと蛇足だったかなぁ。
十分情景が浮かんできて楽しかったけど、まだ足りない、もっとお茶会にいたいな、と思いました。
2. 通常ポイント3点 お題ポイント4 じろー ■2010/03/27 17:04:22
幻想の定義のとらえ方は共感するところがあります。
ただ、短い文章なのでどうしても淡々として説教臭く感じてしまいました。ストーリーの内容は別にあり、バックグラウンドにテーマを載せるやり方のほうが、自然でおしゃれかもしれません。読者目線で話が進んでいるので、違うキャラとの絡みの中でその話をしたらどうなるかも、気になるところですね。
3. 通常ポイント3点 お題ポイント2 ぶるり ■2010/04/01 18:02:56
 ごめんなさい、私には分かりません
 この作品がどこで、どういう状況で起こった出来事なのか
 どうも意味なく謎めいていて深淵に迫るような事は一切ないような、そんな気がしました。

 お題について。
 クスリがあまりにもやっつけすぎます。
4. 通常ポイント2点 お題ポイント3 八重結界 ■2010/04/02 17:14:09
こんな風に招かれてみたいなとは思ったり。
5. 通常ポイント4点 お題ポイント5 静かな部屋 ■2010/04/02 20:57:53
【内容のこと】
 マドレーヌも美味しそうだったし、紅茶も飲みたくなりましたが、
ところどころに、説明口調なセリフや、いきなりルナサの口調が変わるところがあったのが少し気になりました。
(地の文は、全部ルナサの言葉だと理解しています)
【お題のこと】
 「くすり」は、無理矢理詰め込んだように思えました。
6. 通常ポイント5点 お題ポイント5 飛び入り魚 ■2010/04/02 21:37:49
 俺はルナサとお茶会した! 俺はルナサとお茶会してきたぞ!
 帰ってこれるからこそ、桃源郷というのに色々と考えさせられます。
7. 通常ポイント3点 お題ポイント3 時計屋 ■2010/04/02 22:47:07
オチのメタネタが今一つ生かされてなかったように感じました。
もう一工夫、何か欲しかった。
8. 通常ポイント5点 お題ポイント3 K.M ■2010/04/02 23:07:38
小気味良いテンポと可愛いルナサさんが楽しめたのでこの点数で。
9. 通常ポイント9点 お題ポイント7 Ministery ■2010/04/02 23:21:32
解釈されました。
鏡像から声をかけられたような驚き。
10. 通常ポイント6点 お題ポイント6 文鎮 ■2010/04/02 23:23:37
なるほど。これはなかなか興味深い解釈です。
受ける力を養うには、経験をつむ必要があるのかもしれません。
11. 通常ポイント3点 お題ポイント2 ワタシ ■2010/04/03 00:14:00
他の対話形式の作品と比べると、いささか冗長に感じました。
起承転結を設けないスタイルは読みやすさが要になるので、もっとシンプルでもよかったと思います。
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