去りし日々は帰らぬ記憶。迎える日々に響く音。

作品集: 最新 投稿日時: 2010/03/20 12:59:49 更新日時: 2010/03/20 12:59:49 評価: 10/11 POINT: 52 SPPOINT: 34 Rate: 1.40
 ――忘れていても、心の片隅では覚えているものだ。
 ――それは、雰囲気だったり、仕草だったり、音だったり。
 ――境界は曖昧まで、何時も霞んでいる。



 □

 雲ひとつなく月が煌々と輝いている中、今日も今日とて、博麗神社は宴会で賑わっていた。
 その賑わっている場所から少し離れ、一本の桜の木の下で、私は一人くぴりと猪口を傾けると、喉元をアルコールの刺激が駆け抜けていく。
 日本酒というのは、この刺激がなんともいえず美味。
 小さく聞こえる神社の喧騒が、その美味しさをさらに引き立てる。
 うるさ過ぎても、静か過ぎてもだめ。この微妙な位置が私は好きだった。
 ひらりひらりと舞う桜の花びらが、猪口の中へ落ちてくる。なかなかに風流だ。

「お隣いいかしら」
「お好きにどうぞ」

 お酒を楽しんでいたところ、現れたのは八雲紫。
 いつものように胡散臭さを振りまいてくすりと笑う。
 私は、徳利から猪口にお酒を注ぎ、紫にそれを差し出した。
「ありがと。あら、桜の花びら」
 紫はいいながら猪口を受け取ると、浮いている花びらを見ながら、
「間接キスね」
 おどけながら、猪口を傾ける。
「何馬鹿なこと言ってんのよ」
 たったそれだけの言葉に照れてしまい、私はそう言いながらそっぽを向いた。
「霊夢、顔真っ赤」
 つんつんと紫が頬を突付いていくる。
「お酒飲んでるからでしょ」
 お酒を飲んでいるからというのは嘘じゃなかったが、この頬の火照りはそれだけが理由じゃないと自分でも分っていた。

 紫が、猪口を傾けながら私の隣に腰を落とし、桜の木に身体をあずける。
 何時までもそっぽを向いてるわけにもいかず、顔をの向きを元に度し、今度は紫の方へと顔を向けた。
 猪口を傾けながら、お酒をのむ紫。
 自然と私の視線は口元に向けられる。
 濡れた唇は艶やか。
 見入ってしまうほどの美しさは唇だけじゃない。
 全体的な美しさ、妖艶とでも言うのだろうか。

「キスでもしたくなった?」
 じっと見すぎていたせいか、紫はにやにやと嫌な笑みを浮かべながら聞いてくる。
「ば、ばかいわないでよ」
「もっと素直になりなさいって」
「素直になってもそんなこと思わないから」

 紫の言動に、私の心臓の鼓動は速度を増す。
 何故、紫はこんなにも私の心を乱すのだろう。
 お酒のせいだ。きっとそうに違いないと自分に言い聞かせる。

「でも、たまには甘えなさいよ」
「甘えてるでしょ」
 紫はそんなこというが、私は甘えているつもりだった。
 頭をぽんぽんと軽く叩いたあと、ゆっくりと手のひらを左右に動かし撫でる。
 なぜか分らないが、私はそうされるのがとても好きだった。
 他の誰にも見せない姿。
 そんな姿を見せられるのは紫だけだった。
 宴会があるときは、嫌味をいいつつもこうやって紫に甘えるのだ。
 私は隣にいる紫の肩へ、頭をあずける。
 それが心地よくて、私は目を閉じた。





 ■■■

 博麗神社の境内。
 私は緑茂る木の後ろに隠れていた。
 はずだった。

「あんた誰よ!」
「ふふ、威勢がいいわね」
 私の目の前には、身長120cmほどの小さな巫女。
 確か年は9歳だっただろうか。
 その年にして、既に博麗の巫女として能力の片鱗を見せていた。
 普通の人間なら、軽く腰を抜かすであろうほどの妖力を向けているのに、その小さな巫女は腰を抜かすことなく地面に力強く足をつき私を睨む。

「紫さん、それくらいにしてやってくださいな」
 そこに現れたのは、現博麗の巫女。
「あら、別に苛めてたわけじゃないですわ」
「ほんとうかしら」

 小さく微笑みながら巫女は笑う。
 なんというか、はっきりいってこの代の博麗の巫女の胡散臭さは私以上だと思う。

「で、神社に来られたのにはどういう理由が?」
「いやね、ちょっと様子を見るだけのつもりだったんだけど、見つかっちゃって」
「それはそれは」
「なかなかいい素質を持っているようね」
「ええ、現巫女の私が言うのもなんですが、歴代で初めてじゃないでしょうか、ここまで素質を持っているのは」
「確かに、博麗の巫女としての力だけではなく、何かを感じさせるわ」
 巫女の後ろに隠れながら、未だ私を睨み続ける霊夢を見ながら言う。
「霊夢、そんなに警戒しなくても大丈夫よ」
「そうそう、私は安全よ」
 私がそう言いながら近寄ると、霊夢は器用に巫女の足元をぐるぐると回りながら逃げる。
 ふふん、そっちがその気なら。
 大人気ないと思いつつも、霊夢を追いかけ、もとい博麗の巫女の周りをぐるぐると回りながら機を窺う。
 先ほど思ったように、この霊夢という少女なかなかに侮れない。
 適当に策を用いても、罠には掛かるまい。

 ぐるぐると回り続ける私。
 その姿は周りから見れば、さぞ滑稽だろう。
「あの〜」
 頭上から巫女の声が聞こえるが、無視無視。
 どれほど追いかけ続けていただろうか、霊夢は少し疲れ始めていた。
 というか、疲れるまで追いかけてたなんて、やっぱり大人気なかったかしら。
 だが、今更「霊夢すごいわね〜」なんて言って、追いかけるのをやめる訳にもいかなかった。
 疲れていたことと、少しの散漫。
 ここだ!
 私は、タイミングをあわせ霊夢の進行方向に隙間を開く。
 その作業は一瞬。
「はい、いらっしゃい」
 腕の中には、霊夢がすっぽり納まっていた。
「?」
 まだ何が起こったか理解できていないのか、暴れることもなく静かに腕の中に納まっている。
 逃げていたはずなのに、突然逃げていた相手の腕の中にいればそうもなるだろう。
 よしよしと、私は霊夢の頭を撫でる。
 やがて、今の状況を理解したのか、霊夢はう〜う〜と唸りながら腕の中から逃れようとしたが、私はそれを許さなかった。
 抱きしめながら、頭を撫で続ける。
 いつしか、霊夢も逃げることを諦め、ただ身を委ねていた。

「はい」
 腕の中にいた霊夢を開放する。
 が、霊夢は私の前に立ったまま、逃げるそぶりは見せず、私の方をじっと見ていた。
「どうしたの?」
「もっと」
 何が『もっと』なのか、分らなかった。
 助けを求め、巫女を見る。

「多分、頭撫でてほしいんですよ」
 巫女はそう言う。
 霊夢のほうを向きなおすと、確かにそういう表情をしていた。
「なるほどね」
 私は霊夢の頭にそっと手を置き、先ほどと同じように頭を撫でる。
 そうされている間の霊夢は、とても気持ちよさそうな表情をしていた。

「ゆかり」
 霊夢が私の名を呼ぶ。
 名前教えたっけ?と思ったが、巫女が最初に名前を呼んでいたことを思い出す。

「どうしたの?」
「ゆかり、また来てくれる?」
 子供というのは本当に無垢だ。
 一度信じたものはとことん信じる。
「霊夢は、私に来てほしいの?」
「うん!!」
 満面の笑みで即答。
 最初の警戒していたときの霊夢とは全く違う。
 好かれて悪い気はしない。
 何より、私も霊夢が気にいっていたのだから。
「じゃあ、来るわ」
 私はにこりと笑いながら、霊夢にそう言った。




 ■■■

「八雲紫参上!」
「あ、ゆかりだ!」
 私が神社に訪れると、霊夢が小走りで寄ってくる。
 自分で言うのもあれだが、随分気にいられたもんだ。
「今日は何教えてくれるの?」
「そうね〜、今日は何にしようかしら」

「楽しそうね」
 そこにやってきたのは巫女。
「楽しいわよ。あなたもご一緒します?」
 だから私はそう返す。
「ご一緒したいのはやまやまなんですが、今日は少し用事があるんですよ」
「そう、それは残念」
「では行ってきますね」
 巫女はそれだけ言って、雲ひとつない晴れわたった空へと飛び上がっていった。

 ふむ、少し何時もと違う表情をしていたように思ったけど、何かあったのかしら。
 まあ、私が巫女の心配をするほどのこともない。
 彼女は一人で何でもこなしてしまうのだから。

「ねえ、ゆかり何教えてくれるの〜?」
 私が飛び立った巫女をずっと見ていたからなのか、くいくいと服を引っ張りながら霊夢が催促してくる。
 心配しても何かが変わるわけでもない。
 今は霊夢の相手をしよう。
「そうね〜」
 そう言いながら、私は懐から札を取り出した。
「なになに」
 目をキラキラさせながら、札を覗く霊夢。
「ふふ、見てなさい」
 指に挟んだ札を上空に投げる。
 札には力が込められているので、風に左右されることなくどんどん上空へと上がっていく。
 それがある程度上がったところで、札は一枚一枚決まった軌跡を描き空で踊った。

「すごい……」
「でしょ」
 霊夢は、口をぽかんと開けて、空で踊る札に見入っていた。
 どれほど空を見上げていただろうか。
「私にもできるかな」
 ぽつりと呟く。
「大丈夫よ。霊夢なら出来るわ」
「ほんとに?」
「ほんともほんと、教えるのがこの私なんだから当然出来るようになるわ」

 私はそう言いながら、札を回収し霊夢に渡した。
「紫先生の授業の始まり始まり――」




 ■■■

 あれからどれほどの時が過ぎただろうか。
 私は一つの心配事が出来ていた。
 大丈夫だと思いほっておいたのだが、反勢力が力をつけ始めていたのだ。
 反勢力。
 それは幻想郷のバランスをとっている私に反する勢力のこと。
 ようは反博麗派ということだ。
 幻想郷は皆仲が良くて、争いもない楽園?
 そんなわけあるはずがない。
 妖怪は人を襲い、人は妖怪を退治する。
 確かにそのとおりだが、それは一つの事象にすぎない。
 妖怪が妖怪が襲うことだってあるのだ。
 不満を抱き、私に挑んでくる妖怪だって何匹もいる。
 私は襲われるたびに妖怪達を相手した。
 そう、バランスを崩すような輩を野放しにしておくわけにはいかないのだ。


 巫女はその反博麗派の妖怪を退治していた。
 しかも数年も前から。
 しかし、反勢力のやつら、一体何が不満だというのか。
 文句があるなら直接くればいいのに。
 いや、直接きてる奴もいるんだった。


 私は隙間を通り、神社へと降り立つ
 巫女はいないようだ。気配がしない。
 おそらく妖怪退治をしているのだろう。

「紫!」
 神社にきた私を見つけた霊夢は、笑顔で掛けよってくる。
 霊夢の身長は少し伸びて130cmほどになっていた。
「紫、見て見て」
 霊夢は胸に札を抱えていた。
 何をするつもりなのだろう。

「何を見せてくれるのかしら」
「見てて!」
 そういうやいなや、霊夢はその札を上空に投げた。

 空へ上がった札は、一定の奇跡を描き踊る。
 これは、私がやって見せたやつ。
 しかし、教えたものとは少し違っていた。
 さらに美しく、その札の動きはまるで霊夢自身を映しているかのようだった



 その後、札をずっと動かして疲れてしまったのか、霊夢は私の膝の上で眠ってしまった。
 さらりと髪をかきあげる。

「ただいまー」
 そこへ帰ってきたのは巫女。
「おかえり」
 霊夢の頭を撫でながら、私は巫女を見る。
 巫女服はところどころ破れ、汚れていた。
 だが巫女本人は元気そのもので、血色のいい顔で何時もと変わらない笑みを向けてくる。

「大変だったみたいね」
 どうしたの?とは聞かない。
 何故そうなったのかは分っているのだから、わざわざ聞く必要もないのだ。
「そうでもないわよ」
 まるで簡単に仕事をこなしてきたような口ぶり。
 だが、それは本音だろう。
 巫女に対して、脅威になる妖怪なんて一握りなんだから。
「そう、あなたが言うならそうなんでしょうね」
「ふふふ」
 巫女は笑う。
「霊夢寝ちゃったのね」
「ええ」

 寝ている霊夢を覗きながら、巫女がふと見せた陰り。
 一体なんだったのか、結局一瞬だったこともあり、聞くことは出来なかった。




 ■■

 とうとう反勢力が動いた。
 だが、その行動が分ったのは少し時間が経ってからだったのだ。
 私は急いで神社へと向かうが、着いたのが遅かった。 

 その惨状たるや、まるで目も向けられない。
 数体の妖怪の死骸と、その中央に倒れている博麗の巫女。
 近寄って確認するが、巫女の息は既に事切れていた。
 ざわりと、私の中で何かが蠢く。

「霊夢?!」
 そういえば、霊夢の姿が見えない。
 一体どこに居るというのだろう。
 見渡す感じ、霊夢がいるようにも見えないし、気配も感じない。
 だが、少しの違和感。
 一部、空間の境界にずれがある。
 気づいてしまえば、私にとってそのずれを修正することは簡単だった。
 修正後、現れる。
 巫女が張ったであろう小さな、小さな結界。
 その中に霊夢はいた。

 がたがたと震えながら、膝を抱え座っていた。
「霊夢」
 声を掛けると、霊夢が私のほうへ向く。
「霊夢?!」
 その表情を見て、私は思わず霊夢のところまで駆け寄り強く抱きしめた。
 一体霊夢は何を見たというのか。
 生気を失った瞳。
 よほどのことがないと、こんな瞳にはならない。
 霊夢を抱きしめながら、私は唇を噛む。
 私らしくない。
 だが、抑えられなかった。
 殺気が漏れる。
 普段の霊夢ならその殺気に反応し、私から離れていただろう。
 しかし霊夢は離れなかった。


「藍! 藍!!」
「は、ここに」
 境界は既に開いておいた。
 名前を呼ぶと、私の式である藍が現れる。
「犯人を捜しなさい。目星は大体ついてるわ……」
「見つけてどうしますか?」
 藍が聞いてくる。
 答えなんて決まっていた。
「殺しなさい!!」
「分りました」
 藍はそう言うと、すぐに行動に移った。
 新たに開いた隙間をくぐりぬけ、藍の姿は消える。


 私は藍が行った後も、ずっと霊夢を抱きしめていた。




 ■

 巫女は死んだが、博麗結界は維持されていた。
 そう、私は一つだけ疑問を持っていたのだ。
 何故、巫女は簡単にやられてしまったのか。
 力だけで言えば、かなり強い部類だったのにだ。
 だがその理由は簡単だった。

 巫女は、霊夢に力を継承していたのである。
 博麗の巫女に選ばれる者は、それに相応しい力を持ったものが選ばれるのだが、それだけでは博麗の巫女にはなれないのだ。
 儀式を行い、初代博麗の力を代々継承させていく。
 継承させた後の巫女からは博麗の力はなくなり、本人が持っている本来のみの力になる。
 だから、いくら巫女が強かったとはいえ、妖怪の強さには敵わず命を落としてしまったのである。

「霊夢」
「……」
 いまだ生気のないまま、口は開かない。
 こんな状態なのに、結界は維持出来ているなんて。
 だが、結界を維持するだけが巫女の役割ではない。
 このままでいいはずがないのだ。
 しかし手立てがない。
 いや、ないと言えば嘘になる。
 手立てはあるが、その手は出来るだけ使いたくないとう言うのが本音。

 そう思っていたが、時間がそれを許してくれなかった。
 私は決意し、立ち上がる。
 決意してからの行動は早かった。

「霊夢、ごめんね」
 霊夢の周りが、私の式で囲まれていく。
 幾重にも張り巡らさせれる式。
 ただ境界を弄るだけなら、ここまで高度な式は必要ない。
 しかし、これから弄ろうとしている境界は、高度な式が必要だった。
 式が完成する。
 後は発動させるだけ。

「霊夢……」
 呟きながら、霊夢を抱きしめ頭を撫でた。
「……ゆ…かり」
「……」
 一瞬のきらめき。
 私には分っていた。
 どんな状態であろうと、深層意識は残っているのだ。
 頭を撫でたことで、それが少し出たのだろう。
 ただ、それだけのことだったのに私は嬉しかった。
 最後くらい、笑顔で別れよう。
 自分なりに笑顔を作り、くすりと笑い――。

「さよなら、霊夢」
 式が発動する。
 大丈夫だ。
 霊夢ならきっと、博麗の巫女としての役割をしてくれるだろう。

 私はそう信じ、その場から去った。






 ■

「ほら、出てきました」

 なんとも軽そうに言いながら姿を現すが、本当はもう泣きそうだった。
 目の前にいるのは、霊夢に間違いなかったからだ。
 だが、私は幻想郷の賢者こと八雲紫。
 霊夢が役目を果たそうとしているなら、私も役目を果たさなければならない。

 霊夢が何故、ここに来たのかは大体察しもついていた。
 白玉楼の結界が弱まっている。
 恐らくはそのせいだろう。

「あ、丁度いいところに出てきた」
 あれから成長し、少しは大人っぽくなっていたが、中身はどうだろうか。

「あなたが、私の藍を倒した人間ね。あなたみたいな物騒な人間がいたら、おちおち寝ても居られないの」
 相変わらずその強さは磐石なようで、私が寝ていたとはいえ藍を倒すほどの力を持っているのは確実。
 手を抜けば私だろうと倒されるだろう。
 まあ、手を抜くつもりなんてはなからないのだけど。

「全然起きてこなかったじゃない」
 霊夢のいうことはもっともだが、私は冬眠を必要とするのだ仕方ないでしょ。
「今は起きてるでしょ」
 だから屁理屈をのべる。

「そんなことより、あなた……」
「はい?」
 私は少し様子を観察するために、揺さぶりをいれる。

「博麗神社のおめでたい人じゃないかしら」
 いいながら、私の口からはくすりと笑い声が漏れる。
 何故こんなことを言ってしまったのかしら、と。
 まあ、これが私なのだからしようがない。
 反応を見る。

「前半はそうで、後半はそうじゃない」
 もっともな反応。
 ここで、私の中で少しの悪戯心が芽生える。

「博麗の結界は、北東側が薄くなっているわ。あのままだと破れてしまうかもしれない」
「あらそう、それは危険だわ。わざわざ有難うございます」
「いえいえ、私が穴を空けてみただけです」
 もちろん冗談だ。
 だが、霊夢にこの場でそれを確かめるすべはない。
「って、引き直しておきなさい!」
 怒った怒った。
 私は顔がにやけないように、その様子を観察する。

「所詮、妖怪は妖怪。妖怪の始末も後始末も、人間がやることになるのね」
 その言葉をきいて私は安心した。
 霊夢は、博麗の巫女の役割をきちんとこなしているようだ。
 なら、幻想郷のバランスを保つため、私は霊夢と合間見えよう。

「あら、あなたは気づいていない?」
 さあ、始めようか。
「?」
「今、ここ白玉楼の私の周りは、妖怪と人間の境界が薄くなっていることに。ここに来た時点で、人間の境界を越しているということに」
「いいから、その境界も引き直してもらうわ。元々、あんたには冥界の境界を引きなおさせるつもりだった。そこにきて、一つや二つ結界が増えても変わらないでしょ?」

「一つや二つ……」
 確かに、一つや二つ引きなおすなんて、私にとっては造作もない。
 しかし結界がたったそれだけのわけがないでしょう。
「結界は、そんなに少ないと思って?」
 私はそう言いながら、ニヤリと唇の端を吊り上げ弾幕を放った。




 ◇

「私……寝てた?」
 目を覚ますと、私は紫の肩を借りたまま眠ってしまっていたようだった。
 いまだ神社の喧騒は続いており、宴会は終わりそうにない。
 それにしても、何か夢を見ていたような気がするが一体なんだったんだろうか。

「ねえ、紫」
 声をかけ、紫の方を見る。
 紫は眠っていた。
 すぅすぅと、寝息を立てながら。
 こんなに無防備で眠っている紫なんて初めてみた。
 ちょっと悪戯してやろうかな、なんて思ったが思いとどまる。
 そしたまた紫の肩に頭をあずけ目を閉じた。




 喧騒は未だ神社に響き渡っている。
 本来、交わることのない種族同士、人妖乱れてただ楽しむのだ。
 それが出来るのは宴会だけ。
 笑い声。はては泣き声や怒声。
 声だけではない。
 色々なものが混ざり合って喧騒となるのだ。



 喧騒は音となり、小気味の良いリズムを奏でながら私の耳に届く。
 その音楽を聞きながらくすりと笑い、また紫の夢でも見るのかな、なんて思いながら再びまどろみの中へ落ちていった。



 
好きだと思うことには意味がある。
香由知凪
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/03/20 12:59:49
更新日時:
2010/03/20 12:59:49
評価:
10/11
POINT:
52
SPPOINT:
34
Rate:
1.40
1. 通常ポイント6点 お題ポイント4 ■2010/03/21 03:43:55
過去話と百合、両方苦手なんですが
この作品はそこそこさらっと読めました……アレルギーが出なかった。おかしいな。
こういう密かに頑張ってるゆかりんは大好きだからかもしれない。
しょっちゅう紫にSS書くとき悪役として世話になってるから、いずれ恩返しをしたいなぁと思った。
2. 通常ポイント6点 お題ポイント4 じろー ■2010/03/25 15:13:54
小さい霊夢かわいいです。「もっと」って言った時の霊夢を想像してほほえましい気分になりました。ああ、きっと舌足らずで、ねだるようでぶっきらぼうな顔をしてたんじゃないかぁって思いました。

反勢力がでてくるのですが、その存在に触れられている部分が少ないのでちょっと想像が難しいと思いました。紫自身が事前にとめることも可能だったのでは、とも思います。

これは、本当に個人的な感想ですが「殺しなさい!!!」という台詞は紫の口から聞きたくなかったかなぁ…と思います。

覚えているものに音を上げていると思うのですが、小霊夢時代に音の描写がそこまでなかったので、それだったら、単純に頭をなでられて嬉しかった時の記憶が忘れてしまってもどこかで感じられると言った方が伝わると考えました。頭をなでた時に髪がこすれてかすかに生じる音、とかそのような描写があれば、撫でられるのが好きだけど、それはこのわしゃわしゃとした感覚が、この音が好き、もしくは懐かしいとか言えたんじゃないかぁ、と思います。
3. 通常ポイント4点 お題ポイント3 ワタシ ■2010/03/26 01:09:34
ほぼ全編回想の過去話なので、いまいち話の起伏に欠ける印象がありました。
冒頭や最後の方等に他の面々の宴会風景があると、
騒がしさが明確で二人きりの静かさが強調されるんじゃないかなと。
4. 通常ポイント6点 お題ポイント2 八重結界 ■2010/04/02 14:17:25
淡々と紡がれる文章に反し、ストーリーは濃くて美しい。
紫の心境を思えば、切ないものがありました。
5. 通常ポイント4点 お題ポイント3 ぶるり ■2010/04/02 18:09:44
ゆーかーれいむっ♪
シリアスッ♪
6. 通常ポイント6点 お題ポイント5 静かな部屋 ■2010/04/02 20:32:17
【内容のこと】
 「霊夢と紫が初めて出会ったのは、春雪異変のときである」
という原作設定と、「昔からの馴染みである」という二次設定が、
見事に共存していて驚きました。ストーリーも自然だったし、
読んでいて楽しめました。
 ただ、気になった点がいくつかありました。
・反勢力の存在。まあ、30kb制限のせいで入らなかっただけなのではないかとも思いましたが……
・博麗は代々力を引き継ぐという説明。にもかかわらず、霊夢が引継ぎの前から札を操っていたこと。

【お題のこと】
 「くすり」の使い方が、「くすりと笑う」だけなのは、ちょっと寂しい。
7. 通常ポイント5点 お題ポイント3 飛び入り魚 ■2010/04/02 21:47:22
 先代巫女の死によるショックから、生気を失った霊夢を取り戻すために
 全ての記憶をリセットしたと解釈しました。
 それをしてもよいのかという紫の葛藤もありましたが、ここが見せ場だったように思えます。
 もっと熱く、深く紫に迫れたチャンスであったように思えます。
 原作ネタは大好き。
8. 通常ポイント4点 お題ポイント2 時計屋 ■2010/04/02 22:19:25
文章の荒さが目に付きました。
そのせいか、ちょっと話に入っていけなかった。
9. 通常ポイント4点 お題ポイント3 K.M ■2010/04/02 22:50:21
全般的にお題成分が薄く感じられたのでこの点数で。
10. 通常ポイント7点 お題ポイント5 文鎮 ■2010/04/02 23:28:08
先代博麗の巫女と霊夢、紫の秘話でしょうか。こういう過去の話は想像が広がりっていいですね。
それだけに、もう少し物語を深いところまで見たかった気もします。
温かく良いお話でした。
11. フリーレス 俺だ ■2012/01/25 20:30:43
ぬいたd(´∀`*)グッ☆ http://www.l7i7.com/
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