すりみときおく

作品集: 最新 投稿日時: 2010/03/19 21:30:10 更新日時: 2010/03/19 21:30:10 評価: 10/10 POINT: 43 SPPOINT: 51 Rate: 1.24
 西行寺幽々子はあらゆる料理を食べてきた。
 美味の名を聞くたびに東奔西走し、ありとあらゆる名産品をその舌にて味わってきた。

「美味しい……。素晴らしいフカヒレね」
「それは鮑です」

「舌が蕩けそうなあんきも豆腐」
「白子豆腐です」

「河豚、危険を冒した者にのみ許される特権」
「鯛ですよ、その刺身」

「旬のウニが美味しいわ」
「プリンに醤油をかけないで下さい」

 予め断言しておこう。
 西行寺幽々子は味音痴であると。








「夕餉の用意ができました」
「はいはーい、今行きますよ」

 急ぐ気が全く感じられない返事をした後、幽々子は妖夢の声がした場所、今へと足を進める。
 今は冬、雪の白と霊の白が交われ、何かと冷たさを感じる季節。
 亡霊である自身の立場を忘れ、温かい食べ物を口にしたいと幽々子は思うのだった。

 しばれる廊下をそそくさと歩き、障子を開けると、暖かい空気と白い煙が幽々子を包みこんだ。
 この煙とこの臭い、答えは一つしかない。

「お線香!?」
「違います」
「これで成仏できる?」
「勝手に逝かないで下さい」

 幽々子の冗談に対して、冷めた応対を繰り返す妖夢。うちの従者はいつから冷たくなってしまったのかしらと嘆く幽々子であった。
 さて、目線を食卓へと戻すと、その食卓が片付けられていることに気が付く。代わりに、部屋の奥にある囲炉裏から、食欲をそそる芳香を含んだ煙が惜しみなく垂れ流されていた。
 中央には火に当てられた黒い鍋が存在感を十分に示しており、緑やら白やらの食材が靄の奥に垣間見えている。
 自分の内なる要求通りの料理が、そこにあったのだ。

「流石は妖夢、抜かり無いわね」
「寒い時には鍋物がいいかなと思いまして」
「素晴らしい発想よ」
「誰もが持っているものと思います」

 謙虚な従者を前にして、幽々子は足をたたんで畳へと座った。食事とは命を頂く厳格崇高な儀式、然るべき体勢にて行うべきなのである。幽々子の正座にて夕食は始まった。
 今回の鍋はいわゆる寄せ鍋、しょうゆ味をベースとした具材詰め込み形の鍋である。
 中身は肉、魚、野菜、茸、練り物と豪勢且つ豊かだ。
 既に妖夢によって取り器が用意されていたので、幽々子はバランスよく食材を器へと取っていく。

「そんなにいっぱい入れて、食べ方が下品ですよ」
「だって美味しそうなんですもの」
「私しかいないんですから……食材は逃げませんよ」

 別にいいじゃない、妖夢しか見ていないんだし、と姑の小言を流すようにしつつ、幽々子は食事を始めた。
 上に載せてあった春菊と白菜を平らげると、どうも見たことが無い具材が目に入る。
 練り物系、であることは間違いない。けれど、一見では材料が何であるかは分からない。
 一度、気になり始めると、他の事に目がいかなくなってしまう。幽々子はそれを箸にとってみた。
 形を保つ硬さは残しているものの、意外にも柔らかい。余計に謎である。
 興味に引き寄せられる形で、幽々子は口をあけてその練り物を頬張った。
 単なる練り物、代わった所は見た目しかない。奇異性で興味を引かせるだけ、その程度のでしかないと思った矢先、彼女に衝撃が走った。

 この味、どこかで味わったことがある。
 それはとてもとても昔。過ぎるのは子供の頃に風邪を引いた時の事。
 子供の頃は身体が弱く、ずっと体調を悪くしていた。だから、幽々子の母は栄養ある食材、薬膳料理をよく幽々子に食べさせていたのだ。
 栄養になるものというのは、大方味に問題があるものが多い。幽々子の母親は課題を克服するために工夫に工夫を凝らし、味の改善に念を入れていた。その一環としてできたのが練り物である。
 加工品、特に練り物系は、色々な材料を入れるために、バランスの取れた食事を少量で行える利点がある。風邪をこじらせて食欲が落ちた時、幽々子は母の作った練り物を食べさせられていた。風邪の時にしか食べられない、ちょっとした贅沢。幽々子お気に入りの食べ物であった。
 すり身と野菜、黄身を混ぜるあの音を思い出す。母が素手で身を捏ねる音を、布団の上から聞いていた。

 嗚呼、若かりし頃の記憶が鮮列な色を持ってして蘇る。
 二度とは味わえないと思っていたのに。
 幽々子は涙を流す、それが懐かしさからなのか美味しいからなのかは分からない。
 ただ一つだけ言える事。彼女は今この瞬間、確かに幸せだった。



「これは素晴らしいすり身、素晴らしいつみれだわ」
「いいえ、これはがんもどきです」
「えっ?」









 改めて断言しておこう。
 西行寺幽々子は味音痴である、と。
「すりみときおく」の作り方

1.きみ、くすり、おとを器に入れる
2.混ぜ混ぜする
3.完成、早めにお食べ下さい
詩所@短編用カスタム
http://kansantosyokan.web.fc2.com/
作品情報
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最新
投稿日時:
2010/03/19 21:30:10
更新日時:
2010/03/19 21:30:10
評価:
10/10
POINT:
43
SPPOINT:
51
Rate:
1.24
1. 通常ポイント3点 お題ポイント3 ■2010/03/21 03:05:09
全部混ぜる発想は無かったが、ちょっと色々と苦しくないだろうかw
でも、母の作ってくれた手料理はいいものだと思います。
2. 通常ポイント3点 お題ポイント5 じろー ■2010/03/25 17:18:50
味音痴なのはわかったのですが、つみれとがんもどきの形状はそこまで似てないじゃないかなと思いました。あと、間違えることに意味はあったのかな、と。
記憶の中で間違えて覚えてるとしたら、出されたものはがんもどきであったかもしれないもので、幽々子は間違えていないのでは?と思います。
また、幽々子が亡霊になってから、一度も鍋物をやっていないという想像はしづらいかったです。
3. 通常ポイント7点 お題ポイント10 ワタシ ■2010/03/26 00:38:55
全部混ぜるという発想はまったくなかったので、お題は無条件で。
話の方も表現が豊かで良い食事の描写だったので高めに。
4. 通常ポイント4点 お題ポイント4 藤村流 ■2010/03/30 14:52:12
 いいえ、それは私のがんもどきです。
 味音痴っていうのは意外性があって面白かったんですが、序盤の展開を多少細かく描写した程度で大オチが決まってしまったので、もうちょっと違う展開があったらなあと思いました。
 タイトルはうまい。
5. 通常ポイント5点 お題ポイント5 ぶるり ■2010/04/01 17:54:22
 テンポ良し、文章面白し、とっても軽く読めました。
 きちんとオチに繋げる為に感動を演出するのも忘れない。
 いや、でも、がんもどきとすり身間違えるのは味音痴じゃないような気もする。

 中々ダイナミックなお題の使い方でございますね。
 こういう派手なの、嫌いじゃないです。まぁ変化球なのでそこまで高い点はつけられませんが。
6. 通常ポイント2点 お題ポイントフリーレス 八重結界 ■2010/04/02 14:15:57
可哀相な幽々子様だと思いはしたものの、これはこれで幸せなのかもしれませんね。
すり身は好きですが、お題の調理が少し強引でした。
7. 通常ポイント5点 お題ポイント7 静かな部屋 ■2010/04/02 20:26:08
【内容のこと】
 ゆゆさま……見た目で気付いてくださいよ……。

このレベルの味音痴が相手なら少しくらい手を抜いても
ばれないだろうに、きちんと料理する妖夢まじ従者の鏡。
嫁に来て欲しい。
【お題のこと】
 これも、「アリ」だと思います。
8. 通常ポイント4点 お題ポイント6 飛び入り魚 ■2010/04/02 21:48:36
 アナグラムとはいえ変な説得力があるのが怖いです。
 おとぼけ幽々子と冷たい妖夢はもはや鉄板か。微笑ましいです。
9. 通常ポイント5点 お題ポイント7 時計屋 ■2010/04/02 22:18:12
三つのお題を面白い形で消化してきたと思います。
お話自体はあっさり軽めなのですが、文章にはどこかぎこちなさも感じました。
10. 通常ポイント5点 お題ポイント4 K.M ■2010/04/02 22:48:42
この幽々子様はもう色々と駄目だwwww
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