とある…

作品集: 最新 投稿日時: 2010/03/16 17:03:47 更新日時: 2010/03/16 17:03:47 評価: 11/11 POINT: 68 SPPOINT: 64 Rate: 1.55
   トクン  トクン


ん? どうやら、目が覚めたようだね。
おい、聞こえているかい?


   トクン   トクン


やあ、目覚めはどうだい?
キミのその様子だと、あまりいい目覚めではないようだね。
まぁ、それもそうだ。こんなドブ川のへりでぐっすりと眠れるやつは、よっぽどの寝不足か、精神が図太いかのどっちかだろう。
それともキミは、そのどっちかなのかい? 図太いようには見えないが。


   トクン   トクン


おっと、そんなにじっと睨まないでくれよ。別に悪気があるわけじゃないんだ。
もともとこんな人を食った言い方をしてしまう性分なんでね。
ただ私は、せっかくこうしてキミと出会えたのだから、少しキミと仲良くなりたいと思っただけさ。
私のこのロッドは特注品でね。どんなものでもすぐに探し出すことができる代物なのさ。
このロッドがこんな場所で眠っていたキミを探し当てたんだ。


   トクン    トクン


まぁ、冗談だがね。
別にこのロッドでキミを探していたわけじゃない。
本当は別の宝を探していたんだが、その途中でここで眠っていたキミを見つけたんだ。
まったく、偶然というものは面白いものだね。


   トクン    トクン


ふむ、何の反応もないというのは少し寂しいものだよ。キミはずいぶんと寡黙な性格のようだね。
私を見て驚くわけでもない、呆れるわけでもない。いや、単純に寝ぼけているだけか?
おい、起きているかい?
目は開いているようだから寝てはいないと思うが。キミに目を開けて寝る習性があるならば話は別だがな。


   トクン     トクン


まあいい。せっかくだから私の話をしようか?
私は、まぁ、こんななりをしているが、ねずみだ。
お、ちょっと反応したな。とはいえ、そんな意外そうな目で私を見るのはちょっと悲しいぞ。
ほら、ちゃんと耳と尻尾があるだろう? 私がねずみである証拠だ。
一応、ナズーリンという名前があるが、まぁ、キミにとっては名前なんて必要ないものだろう。
こんななりをしているのは、もう何年もとあるお方に仕えて生きてきたからだ。
物の怪といっても差し支えないくらい長い年月をだ。
まぁ、私くらいの物の怪、この幻想郷にはそれこそ星の数ほどいるだろうけどな。


   トクン      トクン


それともう一つ。私の特技は物を探し当てること。
私の持つこのロッドとペンディラムでいろいろなものを探して当てることを生業としている。
言っておくが、私の腕はなかなかなものだと自負するよ。
このロッドもペンデュラムも感度はばっちりだ。それに今はここにはいないが、私の子ねずみたちもいい仕事をしてくれる。
もし、キミも何か探してほしいものがあるならば私に相談するといい。
期待以上の仕事をすると約束しよう。
ただ、その探し物が食べ物の場合は話が別だがね。私の子ねずみたちの食欲旺盛さには参ったものだよ。


   トクン       トクン


……。ふむ、そうだな。こうして会ったのも何かの縁かもしれない。
実は宝があるかもしれない場所に当たりをつけてあるんだ。
今から、その宝を探しに行くんだが、良かったらキミも一緒に来ないか?
ああ、いやいや。別にキミに宝を探す手伝いをしてほしいというわけじゃないんだ。
キミはただ、私が宝を探すのを見ていればいい。つまりは見学ってことだ。
普段はこんなことをしているわけじゃないが、今日は気分がいい。
どのみちこんな場所にいても、退屈だろうし、なにより寒い。
私と一緒に来るほうが楽しいと思うのだが、どうだろう?


   トクン        トクン


返事がない。ならば肯定ということで。
何も言ってない? すまないね、私はせっかちなんだ。


   トクン        トクン


で、その場所なのだが、ここからちょっと離れたところなんだ。
飛べば半刻足らずで着くだろうが、歩きで行くには少々骨が折れる。だから、飛ばせてもらうよ。
いやいや、言いたい事はわかる。キミは空を飛ぶことができないのだろう?
ならばこの籠に載っていくといい。乗り心地は保障しないが、なに、半刻程度だ。すぐに着く。


   トクン         トクン


……。さあさ、いつまでも見ていないで、早く乗りなよ。
宝は待ってくれない。いつ、誰の手に渡るかわかったものではないからね。


   トクン           トクン


んしょ…。ちゃんと乗ったようだね。
んじゃ、ちょっと飛ばすから、しっかりつかまってくれ。振り落とされても私は知らないよ。










ふむ、少し風が強いな。でも、温かい風だ。日もいい感じに照っている。飛ぶにはちょうどいい気候だよ。
もうしばらくすると、今度は暑くなってくるからな。こういう日が長く続いてくれるとありがたいのだが。


   トクン              トクン


って、おいおい。いきなり落ちそうにならないでくれ。
あまり高度は高くしてないが、いくらキミでも落ちたらケガじゃすまないよ。
まったく、私が気がついたからよかったものを。
よし。こうして私が抱えておけば、落ちることはないだろう。あまり世話をやかせないでくれよ。


   トクン               トクン


ん? 空を見ているのか? 空に何か面白いものでも見えるのか?
ふふ、冗談だ。
珍しいのだろう? 空を飛ぶことが。
確かに空を飛べない者がこうやって空を飛び、風を感じることなど、なかなかあることではないからな。
私の子ねずみたちも、慣れないころは大変だったぞ、騒がしくて。
一匹が落ちそうになると、二匹、三匹とつられて落ちそうになる。まったく、何度肝を冷やしたことか。


   トクン               トクン


……。一つ聞いていいだろうか?
キミは自分で空を飛びたいと思ったことはないか?


   トクン                 トクン


いや、わかっているさ。キミは飛べない。種族として、そう作られているわけじゃないからな。
そう、たとえば……。
キミは夢を見るんだ。キミがキミという身体ではなく……そうだな……キミが蝶になって、キミ自身が空を飛ぶ夢だ。
その夢の中で、キミは自由だ。川も山も谷も関係ない。どこへでも飛んでいける。
そんな夢を見てみたい……そう思ったことはないかい?


   トクン                   トクン


……。ふふ、気にしないでくれ。
こんなことを聞いても、キミには答えられないだろうね。そんなことはわかっているさ。
私のいつもの悪い癖だよ。ちょっと難しいことを聞いて意地を悪くしてみたくなるのさ。


   トクン                     トクン


さ、目的の場所まではまだかかる。もう少し辛抱してくれよ。










さて、着いたよ。ここが今回の目的地だ。
大きな屋敷だろう? 迷いの竹林の中にある、永遠亭という屋敷だ。
この屋敷は、巫女が見つけてからまだそう経ってないものでね。
それゆえにまだまだ謎の多い場所なんだ。


   トクン                        トクン


ただ、わかっているのは、この屋敷の主は相当のコレクターだということ。
その主が以前開いた催しでは、見たこともないものを数多く展示していたと聞く。
わかるかい。未知の領域かつ珍しいものがある屋敷。私たちダウザーにとって、これほどわくわくする場所はないよ。
聞けばこの屋敷には、その主と従者、あとはたくさんの兎がいるだけらしい。
主と従者はともかく、兎など私の敵ではないからな。危険もそんなにないさ。


   トクン
                              トクン


さて、ここからが私の腕の見せ所だ。
この私のロッドに見つけられないものなど……おい、どうした?


   トクン
                                  トクン


まだ寝るには早い。むしろ、これからが本番だというのに。
……さては、慣れない飛行で疲れてしまったか? 見たところ、キミは体力がかなり低いように見えるし。
それなら、無理に見ていることはない。宝探しは私に任せて、キミは休むといいだろう。
なに、心配することはない。いい物を見つけたら、真っ先にキミを起こして見せることにしよう。
だから、ゆっくり休むといい。












   トクン
                                  トクン


ああ、……女史か。またお邪魔して……。例のものをもらいに……。


そうだ。ドブ川で……捨……たよ。もう……だ。


   トクン
                                      トクン


それは……私を買いかぶり……けだ。私は元から……格だよ。


どういう意味だい?


そうだね……。たしかにあなたの言うことは……だ。こうして私た……話をしている間も死……同胞たち……んいる。
その全て……救……いことは知っているさ。


   トクン
                                      トクン


でも。






せっかくこの私が見つけたんだ。最期くらい、いい夢を見せてやってもいいじゃないか。






   トクン

                                         トクン



……助かる。


さあ、何て言っ……な? できればそれも治して……助かるん……。


あなたに匙を投げ……は、でもまあ、言いたい……わかるさ。


馬鹿につける……はない。だろう?


   トクン

                                          トクン













おい、起きなよ。
おい、……おい!
聞こえているかい? 聞こえているなら起きてくれよ!


   トクン

                                          トクン


……ああ、起きたようだね。
やあ、目覚めは……その様子だと、最悪なようだね。


   トクン


                                              トクン


こらこら、すぐに目を閉じるな。また眠るには早すぎるぞ。
まったく、キミは本当に寝ぼすけだ。もう少し元気があっても罰は当たらないと思うぞ。
私の子ねずみたちなんて、元気すぎるくらいで……いやまあ、そんなことはこの際、どうでもいいさ。


   トクン


                                              トクン


だから、目をつぶるな。起きてくれ。
私が悪かったよ。ちゃんと、本題を話すから。
さっき、言っただろう。いい物を見つけたら、真っ先にキミを起こして見せると。
そのいい物を見つけたんだ。キミにぴったりのものがね。


   トクン


                                                 トクン


ほら、私の手に小さな粒があるだろう? きっと食べ物だ。里の店に良く置いてあるラムネというものかもしれない。
近くでよく見てみるか? ほら、見えるか?
おいしそうだろう? 私は食べたことがないからわからないが、きっとおいしいに違いない。
しかも珍しいものがたくさんあるこの屋敷で見つかったラムネだ。きっとおいしいに違いない。
本来なら、私が真っ先に頂くところなのだが、今日は特別だ。このラムネはキミにあげよう。
どうだ? うれしいだろう?
目を閉じていてはわからないぞ。ほら、目を開くんだ。そして、うれしいなら首を縦に振るんだ。


   トクン



                                                 トクン


よし、開いたな。じゃあ、次は首だ。首を縦に振って……。
……!?


   トクン



                                                   トクン


その目……。
……そうか、もう知っているのか。


   トクン



                                                    

まったく、今頃首を縦に振るんじゃない。タイミングが悪すぎるぞ。
でも、そうだな。知っているのならもう、隠すこともあるまい。


   トクン



                                                    


キミは、もう間もないうちに死ぬ。
何があったかは知らない。敵に襲われたのか、ドブ川に流されたのか。でも、私が見つけたときはもう虫の息だった。
私はキミのように命を落とす寸前の者たちをたくさん見てきた。これでも長生きなのがとりえなのでね。
だからわかるのさ。キミはもうじき死ぬって。
冷たい言い方だが、キミの死はもう回避のできないものだろう。
見殺しにするのは忍びないが、これが自然なことだと私も知っているからな。私がキミを死から救うことなんてできないさ。


   トクン



                                                    


でも、救うことはできなくとも、キミの死を安らかなものにはできる。
キミに待ち受けているものが決して怖いものではなく、蝶になって自由に空を飛び回る夢を見たときのような、そんな楽しいものにできる。
そう、私は信じているさ。


   トクン



                                                    


……なんて。
冗談だ。


   ト ク ン



                                                    


そう。キミが死ぬなんて、悪い冗談だよ。


   ト  ク  ン



                                                    


いくらなんでも、そう簡単にほいほい死ぬようなもんじゃないよ。
キミはただ、疲れているだけ。今は少し眠りがほしいだけ。
だから、私が見つけたこのおいしそうなラムネを食べて、眠ればいい。
目が覚めたときは、また元気に駆け回ることができる。宝探しもまた、そのときに見学してもらうさ。
まあ、探し物に自信があるのなら、手伝ってもらっても一向に構わないが。


     ト   ク   ン



                                                    


さあ、口を開けて。せっかくこの私が見つけた宝を譲ってやるというのに、それを拒むなんて失礼にもほどがあるぞ。
……よし、飲んだな。
ちょっと荒っぽかったかもしれないが、まあ、許してくれ。私はせっかちなんだ。


   ト     ク     ン



                                                   


キミが寝ている間は、私が見張っていてやろう。
さっきも言ったが、兎なんかに後れを取るような私じゃない。危険なんてない。
だから安心して眠るといい。


       ト        ク        ン



                                                   


……なあ。


       ト          ク          



                                                   


見られるといいな。


        ト               ク   



                                                   


キミが蝶となって。


      ト       



                                                   


自由に空を飛びまわる夢を。


              



                                                   




              



                                                   
ああ、すまないね。つい語ってしまったよ。

我ながらつまらない話だよ。とある老ねずみが蝶になった話なんてね。

私のいつもの悪い癖だ。
つまらない話をして意地を悪くするのがね。
できればあまり気にせず、笑ってやってくれるとありがたい。

ああ、こんな馬鹿につけるクスリなんてないなと。

さて、そろそろ次の宝を探しに行くとしよう。
実はもう当たりをつけてあるんだ。

よかったら、キミも一緒に行くかい?
papa
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/03/16 17:03:47
更新日時:
2010/03/16 17:03:47
評価:
11/11
POINT:
68
SPPOINT:
64
Rate:
1.55
1. 通常ポイント6点 お題ポイント7 ■2010/03/21 02:36:35
聞こえない部分がわかりづらすぎて読み返しが必要でした
が、しかし、老ねずみを見とるナズーリンはかっこいいなぁ、と思いました。
くすりも結構印象的に使われてる感がありました。逆に薬を隠すとは。
2. 通常ポイント7点 お題ポイント7 藤田 ■2010/03/21 09:55:10
少しずつ弱くなっていく鼓動が、悲しかった。
最後のは胡蝶夢丸だったのかな。ネズミ、良い夢を見れるといいですね。

ナズーリンの語りが、良い味を出していたと思います。
3. 通常ポイント7点 お題ポイント5 ワタシ ■2010/03/23 00:40:01
「きみ」でナズーリンの話は今回多いと見てましたが、その中では一番好きです。
甘い嘘は死者のためか自分のためか。
4. 通常ポイント4点 お題ポイント4 じろー ■2010/03/23 22:03:14
擬音で持って、心臓の鼓動を表現するという形、その構成は、確かに字面でわかりやすいという半面、あくまでも擬音であるものが目立ちすぎてテンポが悪くなることにもなりかねると思ってしまいました。

胡蝶の夢の話ですが、老ネズミの願いが描写できていれば、さらに良かったと思います。ナズの一方的な願いではなく、老ネズミが生前から蝶になりたいという望みがあったという話があれば、また違う見方ができると考えられます。
5. 通常ポイント10点 お題ポイント10 名前が無い程度の能力 ■2010/03/28 23:24:54
途中で心音の意味に気づいたときには心の中で身震いしてしまいました。
6. 通常ポイント7点 お題ポイント6 静かな部屋 ■2010/04/02 11:47:48
【内容のこと】
ああ、そういうことだったのか。
「きみ」と話しているとき、「きみ」を看取るとき、
ナズーリンはどんな表情をしていたのか

【お題のこと】
「きみ」といえばナズーリンですね、口調にも違和感がなく、よかったです。
「音」は、死に逝くねずみ?の鼓動
「くすり」もそのまま薬として。
シンプルながら、効果的に使えていたと
7. 通常ポイント2点 お題ポイント2 八重結界 ■2010/04/02 13:24:00
心臓の音が良い演出にはなっていたものの、あまり続くと読みにくさを覚えてしまいました。
8. 通常ポイント4点 お題ポイント5 飛び入り魚 ■2010/04/02 21:51:03
 心音を、文章として表現するとより深みが出るかと思いました。
 面倒見のいいナズーリンがいい味してます。
9. 通常ポイント7点 お題ポイント7 Ministery ■2010/04/02 22:14:35
ナズーリン、お前って奴は……(涙
鼓動のギミックが新鮮でした。
10. 通常ポイント6点 お題ポイント5 K.M ■2010/04/02 22:29:55
心音が……切なくも美しい作品でした。
11. 通常ポイント8点 お題ポイント6 文鎮 ■2010/04/02 23:25:20
おお、ナズーリンが話しかけていたのは鼠でしたか。
トクンは良い演出だったと思いますが、ややうるさかったかもしれません。
老いた鼠に話しかけるナズーリン、そして最後の嘘。素敵でした。
名前 メール
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