東方サスペンス「妖怪・古杣を追え!」

作品集: 最新 投稿日時: 2010/03/10 01:35:34 更新日時: 2010/04/04 00:22:51 評価: 13/14 POINT: 59 SPPOINT: 61 Rate: 1.20
 魔理沙は芝居がかった動きでアリスの事を指さすと、更に芝居がかったセリフを吐いた。

「つまり君が犯人というわけだ」

 名探偵が犯人を追い詰めるシーンさながら、アリスの表情が一瞬凍りつく。
 しかし、アリスはニヤリと笑った。





◇◇◇





 博麗神社では、いつものように霊夢と魔理沙がちゃぶ台でお茶を飲みながら、他愛もない話をしていた。
 今日はそこにアリスも加わっている。彼女が神社に自主的に来ることは少し珍しい事であった。
 しかし、この博麗神社には人妖を問わずして、あらゆる者が集まってくるので誰が来ようと誰も気に留めなかった。

「しかし、最近は面白い事件も起きなくて暇だと思わんか?魔界に行ったきり、平和すぎるぜ」
 魔理沙の言葉に、霊夢は煎餅を一口噛み砕き、答える。
「アンタはお遊びでやってるからいいだろうけどねえ、私は異変が起きたら仕事として解決しなきゃならないから
 平和ならそれが一番よ」
 その霊夢の言葉に切り返すように、煎餅を手で一口大に砕きながらアリスが反論する。
「あら、貴方も異変が起きる度に喜んで解決しにいってる気がするけど?」
「気のせいよ。放っておいたら私に実害が及ぶような時だけ頑張ってるのよ」
「さっきと言ってることが違うぜ…」

 そんな話をしていると、神社にまたもや新たな客が現れた。
 正確には、今度は客というより人がいない場所を探し求めて来た者といった方が正確だろう。

「おーい、巫女さん。ちょっと縁側を借りてもいいかい?」
「あら、サボさん」
 やって来たのは、サボリの常習犯で死神の小野塚小町だった。
「やれやれ、その言い方は辞めてくれないかい?ちょっと休憩にきただけだよ」
 小町はそういいながら、縁側にゴロンと横になった。
「いやあ、こんな暖かい日はこういう所でのんびりするのに限るよ」
「お前、冬場は寒いときに仕事するもんじゃないって炬燵に入りに来てたよな」
 魔理沙のツッコミを聞き流して小町は、空を泳ぐ雲の流れを眺めていた。

 霊夢が再び何かを喋ろうと口を開いた時、それは突然やって来た。





――――――





 言葉に出来ないような、甲高い不快な音が霊夢たちを襲った。

「うわっ!なんだこの音!?耳が痛いぜ!」
「ちょっと、誰よ!変な真似したのは?」
「…う、どこから聞こえて来てるのかしら?」

 三人は耳を塞ぎながら、それでもなお耳に入ってくる怪音の出所を聞きとろうとした。

「…うーん。なんだか、どこから聞こえてくるのか分からない音ねえ…」
「遠くから響いてくるようにも聞こえるし、すごく近くからにも聞こえるぜ」
 ついに我慢できなくなった三人は、一斉に居間から縁側へと逃げた。
 そこには、さっきと変わらずに寝そべって空を眺める小町がいた。

「ん?どうしたい、三人ともヤケに慌ててるじゃないか?」
 小町は三人に向かって呑気な声を出す。それを見た霊夢がムッとして眉をひそめる。

「あれ?アンタにはこの音聞こえてないの?」
 その霊夢の言葉に小町はポカンと口を開け、数秒間黙って耳を澄ませた。

「音?なんの事だい…あたいには蟻さんの足音しか聞こえないけどねぇ」
「え?本当にこの嫌な音が聞こえないの?」
「もしかして…お前が出してるんじゃないのか、この音!」
 霊夢と魔理沙は一斉に小町へ猜疑の目を向けたが、それにアリスが待ったをかけた。

「もしかしたら、この音は古杣(ふるそま)の仕業かも知れないわ」
 アリスの言葉に、魔理沙は首を捻った。
「なんだ、古杣って?」
 その問いには、アリスの代わりに霊夢が答える。
「古杣っていうのは『音』だけの妖怪よ。私もまだその正体は見たことがないけど」
「へぇ、鵺を見つけた貴方でも古杣の姿までは見たことが無いのね?」
 アリスのセリフに、霊夢はお手上げのポーズをとって答える。
「だって、音だけの妖怪をどうやって見るのよ?」





―――…





 そのような会話をしている内に、謎の怪音は自然と消えていった。
「一体、なんだったんだ?」
 目を白黒させる魔理沙に、霊夢は頭を掻きながらため息をついて答える。
「分からないわ…とりあえず、家中にお札でも貼って二度と現れないようにしてやろうかしら」

 とりあえず、その日は小町が閻魔に見つかって説教を喰らっているのを横目に、
 魔理沙とアリスは夕方、それぞれの家へと帰っていった。

 霊夢は一通り社務所の天井裏などを調査したが、特に変わったモノや気配は感じなかった。
 そして、今度現れたら意地でも封印するという事にして放っておくことにした。

 しかし、魔理沙は違った。
 あの独特の甲高い音は、ただの妖怪の気まぐれの様には思えなかった。
 自分の中の何かが、あの音には全く別の意味が秘められていると感じ取ったのである。

 魔法の森にある自分の家に着いた魔理沙は、明日になったら怪音の調査に乗り出そうと、
 魔法のキノコの粉末を集めた袋やらをカバンに詰めた。更にいつも被っているお気に入りの帽子にもそれらを仕込んだ。
 そして、愛用品であるミニ八卦炉の調整を済ませてからベッドに横になった。

 それから数刻…





――



―――――





―――――――――――――――――――!





「だーっ!うるさいぜ!!」
 余りの騒音に、目が覚めた魔理沙は身体を起こして声を上げた。
 時計を見ると丑三つ時。こんな時間に何の音だと思った魔理沙は、数秒後に音の正体に気づいた。

「この音…昼間の神社で聞いた音と同じ…だと…?」
 寝惚け眼を擦り、パジャマのまま帽子だけ被った魔理沙は、部屋の明かりを点けて部屋を見渡した。
 しかし、自分の部屋にいつもと変化は見られず、怪音も相変わらずどこから聞こえてくるのか分かりづらい。

「昼間より、少し音量が小さい気がするが…でもウルサイことには変わりないぜ…」

 魔理沙はなんとか正体を突き止めようと、しばらく部屋の中を探索したが古杣の位置は掴めなかった。

「もういい…疲れたぜ…眠い」
 諦めた魔理沙は、ベッドに戻って枕に耳が隠れるほど顔を突っ伏し、なんとか寝ようとする事にした。





◇◇◇





 次の日の朝は、最悪の目覚めだった。
 結局、音が一晩中響きっぱなしで碌に寝ることが出来なかった魔理沙は、ボサボサの髪のまま朝食を食べていた。

「結局、起きたらいつの間にか消えていたが…本当に古杣とかいう妖怪の仕業なのか…?」
 魔理沙は独り言をつぶやきながら、もさもさと食パンを口に含んでいった。

 朝食を食べ終えた頃、魔理沙の家のドアがノックされた。
 こんな朝から誰だ?と思いつつ、魔理沙は手櫛で髪の毛を整えてドアを開く。

「誰だよ、こんな朝早くから・・・」
「おはよう。・・・貴方もヒドイ顔ね、もしかして・・・」
 やってきたのは、アリスだった。同じ魔法の森に住む魔法使いなので、ご近所さんである。
 そして、アリスの顔を見た魔理沙は彼女の身に何が起きたのかを理解することが出来た。

「まあ、上がれよ。お茶でも入れるぜ・・・」
 そう、二人はお互いに目の下に隈を作り、誰がどう見ても寝不足同士であった。





◇◇◇





「やっぱり昨晩、貴方も古杣にやられたのね…」
「うーん、やはり妖怪の仕業なのか?どうも、そうは思えないんだが…とにかく酷い目にあった」
 魔理沙とアリスはお茶を飲んで落ち着いてから、お互いの身に何が起きたかを話した。
 といっても二人とも大体は同じ目にあったようだ。あの怪音が一晩中、鳴り響いたおかげで寝不足になってしまったのだ。

「これは、なんとしても原因を探さにゃならん」
「そうね、今晩もあの音がやってきたら…とてもじゃないけど眠れないわ」
 二人はとりあえず霊夢の所に行き、彼女の所にも昨晩、あの音がやって来なかったか聞くことにした。
 よそ行きの格好に着替えた魔理沙は、アリスと共に神社へと飛び立った。

「もしかしたら、古杣とやらは人に感染していくモノなのか?」
 神社に着くまでの時間で、魔理沙はアリスに古杣について尋ねた。
「いえ、そんな事は聞いたことがないわね。それに古杣って、こんな音を出すような妖怪じゃないのよ。
 普通は木が切り倒される音が森から響いてきたり…人の声だったりするから」
「じゃあ、なんで古杣だと思ったんだ?」
「だって、他に音だけ聞こえてきて姿が見えない妖怪なんていないんだもの」

 そのような話をしていると、二人は神社へと到着していた。
 丁度、霊夢が境内に散らかった桜の花びらを竹箒で掃いていた。
 霊夢は二人に気がつくと、手を振りながら挨拶した。
「あら、魔理沙とアリスじゃない!おはよう。二人で一緒に来るなんて珍しいわね」

「ええ、おはよう霊夢」
「それどころじゃないぜ霊夢!お前の所には夜、あの音がやって来なかったのか?」

 魔理沙の言葉に一瞬、怪訝そうな顔をした霊夢は二人の寝不足の顔を見て理解した。

「もしや、あの音があなた達の所にやってきたの?」
「ええ、そうよ…おかげで一睡も出来なかったわ…」
 アリスがガックリと肩を落として霊夢に訴える。

「それで、貴方の所には来なかったの?」
 続けたアリスに、霊夢は首を縦に振った。

「そうねぇ、私の所には来なかったみたいだけど…あなた達の家にもコレを貼っておけば?」
 そういいながら、霊夢は自分の作ったお札を魔理沙たちに差し出す。
「おいおい、霊夢はあの音の正体を知ろうとは思わないのか?」
 魔理沙は一応、そのお札を受け取りつつ霊夢にそう問う。

「別に大した異変でもないし、私の神社に来なければ放っておくわ」
 最後に面倒だし、と小声で付け足した霊夢に対し魔理沙は腹を立ててアリスは呆れ返った。





◇◇◇





「駄目だ!霊夢のヤツには任しておけん。こうなったら私がなんとかするしかないな」
「そうね、私もこの件に関しては是非とも協力させてもらうわ」
 博麗神社から帰って来た二人は、魔理沙の家で作戦会議をする事にした。
 そして、実害を被った二人はさしたる時間も掛からずに音の正体を突き止める為に結託した。

「おお、本当かねワトスン君!この名探偵マリサ様の助手になってくれるか!」
「誰がワトスンよ…まあ、密偵としてなら貴方の方が上かも知れないわね。私が助手でもいいわよ」
 泥棒やシーフ呼ばわりされる事が多くなってきた魔理沙だが、探偵としての能力は未知数である。
 どちらにせよ、二人は探偵ごっこには乗り気なようであった。

「ふむ、ではまず聞き込み調査を開始だな」
「どこに行けばいいのかしら?」
「とりあえず…一番怪しいところから順番に行くのだ、行くぞアリス君」

 こうして二人の、妖怪・古杣の正体探しが始まった。





◇◇◇





「…で、なんで怪しいといって真っ先にウチにくるのかしら?」
 紅魔館のメイド長・十六夜咲夜は、名探偵とその助手を前にして腕を組み仁王立ちの構えを見せた。

「だって、いつもお前んとこの吸血鬼が何かしら騒ぎを起こすじゃないか?」
「…最近は、お嬢様もそこまで騒ぎは起こさないわよ…」

 咲夜はやれやれと呟きながら、思案を巡らすように数秒間、目を閉じた。

「真面目に答えるけど、その件に関しては紅魔館は全くの無関係よ。お嬢様は、しばらく外出されてないし
 パチュリー様も変な実験はしていないし…他を当たる事ね」
「…どう思うかね、アリス君」
 あくまで探偵を演じ続ける魔理沙に、アリスも乗っかってわざとらしく考える振りをする。
「そうね、実際に本人に会わないと分からないわね」

 アリスのその言葉に応じるように咲夜の後ろから紅魔館の主、レミリア・スカーレットが現れた。

「ふっふっふ…よくぞ来たな、探偵くん。こそこそと何か嗅ぎ回っているようだが
 それが命取りになるとは思わなかったのかね?」
 レミリアは背中の羽で顔を隠して、黒幕を演じ始めた。

「くっ、何ということだ!だが私たちが倒れても第二、第三の探偵が現れるはずだぜ」
「はいはい、そこまでにしましょう。で、レミリアさんは本当に知らないんですか?」
 完全に脱線しかけた話の流れをアリスが元に戻した。

「あ〜あ、私も前に探偵をやったから今度は怪人役をやりたかったのに…
 …その怪音とやらについては本当に何も知らないよ。まあ知ってても教えてやらないけど」

 レミリアの言葉に、一応の納得はついたアリスは魔理沙に向かって





――――――――――――――――!!






 その時、再びあの音が響き渡った。


「うわっ!また来たぜ!この音だよ、この音!」
「よ、よりによってこんな時に…」
 二人はとっさに手で耳を塞いだ。

「くっ、何よこの音は?お嬢様、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないわ、耳が痛いわよ!」
 どうやら咲夜とレミリアも怪音が聞こえるらしく、耳を塞いで悶え始めた。

 と、その時だった。
 4人の居る、紅魔館の大広間に繋がる扉が開かれてパチュリー・ノーレッジがやってきた。
 そして、悶える4人が身体を捩っているのをみて思わず吹き出した。

「ちょっと、貴方達どうしたのよ?気でも狂った?」

 パチュリーの言葉に、4人はキッとパチュリーの方を睨んだ。

「うっ、何よ?」





――――…





 パチュリーが身構えるのと同時に、怪音はまた途切れるようにして消えていった。

「パチュリー様、さっきの音が聞こえなかったのですか?」
 咲夜の問いに、パチュリーは不思議そうに首を捻った。
「音…って?何も聞こえなかったけど…」

「ちょっと、なんでパチェは平気なのよ?吸血鬼である私でさえ嫌だったのに…」
 レミリアが不満そうに頬を膨らませる。

「そういえば、最初に古杣が現れた時…小町さんだけ聞こえていなかったわね…」
 アリスが、顎に手を当てて呟いた。

 その言葉に反応するように、レミリアのイライラは魔理沙とアリスに向けられた。

「彼奴らがさっきの音を連れてきたんじゃないのか!?咲夜、奴らを追い出せーっ!」
「…畏まりました」

 レミリアの命によって、魔理沙とアリスは紅魔館から追い出されてしまった。


「…収穫は無しだったわね」
「いや、紅魔館の連中は怪音に無関係だって事は、分かったぜ」

 二人は気を取り直して続いての聞き込みに向かった。





◇◇◇





 続いて二人がやって来たのは、迷いの竹林にひっそりと佇む永遠亭である。
 普段は簡単には中に入れてくれないが、二人は病気だという口実を使って永遠亭の中に潜り込んだ。



「そう、幻聴…ねぇ」
 永遠亭に住む医者であり不老不死の人間、八意永琳は病気と偽ってやって来た二人の話を聞くと
 いくつかの資料に目を通した。

「あながち、病気というのは嘘じゃないかも知れないわね。診察してあげましょうか?」
 永琳はそういうと、カルテにサラサラと走り書きを始めた。

「いや嘘だっていってるじゃないか。病気だったら、私達以外にも聞こえたのはおかしいだろ?」
「もしかしたら、感染力の非常に強い病気かもね。もしそうだったら、医者としては見逃せないわね」

 永琳が指を弾くと、いつの間にか二人の背後には鈴仙・優曇華院・イナバが立っていた。
「何か用ですか?師匠」

「鈴仙、その二人を動かないようにしておいてくれる?」
 師匠の命令に鈴仙は一瞬戸惑ったが、それは本当の一瞬であった。鈴仙は素早く二人と永琳の間に移動し、目を見開いた。
 魔理沙とアリスが永琳の不穏なセリフに身構えようとした時、既に二人の意識は揺らいでいた。

「しまった、幻覚を…!?」
「おい、何を、するんだ…」
 魔理沙とアリスの視界は唐突に崩れ、天井と地面がどちらにあるのかすら分からなくなった。
 二人は抗議の声をあげつつ、フラフラと足がおぼつかずに診察用の椅子に座り込んでしまった。

「感染したまま幻想郷中を飛び回られたら困るでしょ?ちょっと診察するだけよ」
 そういいつつ、永琳は魔理沙のトロンとした瞼を持ち上げて眼球を良く観察した。
 手際よく耳鼻や舌の粘膜からサンプルを採取すると、傍らに置いてあった薬品で試験を始めた。

「…もういいわ、鈴仙」
「はい」
 数分後、永琳が溜息をつきながら命ずると二人の意識は元に戻った。


「悪かったわね。本当に病気の類ではないようだわ。恨むなら鈴仙を恨んでね」
「ええ!それはないですよ師匠〜」
 鈴仙は驚いて二人の近くから飛び退いた。

「いや、気にするな。病気っていう可能性が消えただけでも一歩前進だ。それよりも本当にこの屋敷で怪音は発生してないんだな?」
「ええ、そんな変な現象の侵入を許すほど永遠亭はオープンにはなっていないつもりよ」

 永琳はそういうと、一粒の薬を取り出した。

「今日も寝不足になるといけないわ。お詫びといってはなんだけど、これを飲むと外で犬が鳴こうが
 龍が哭こうがぐっすり眠れるわよ」
「ありがたいわ…二日連続で徹夜は流石に堪えますから…」
 アリスがその薬を受け取り、魔理沙も受け取ろうとした時だった。






――――――――――――――!!







また、怪音が診察室に響き渡る。

「こ、これだ!聞こえるか?」
 魔理沙とアリスが耳を塞いでしゃがみ込む。しかし、永琳は何事もないように平然としている。

「もしかして…永琳さんも聞こえないんですか?」
 アリスは苦痛に顔を歪めながら永琳に聞き返す。彼女は少し眉をひそめた後、理解したように頷いた。

「ああ、貴方達にとってはこの音が不快なのね…」
「あれ?そういえばお前のとこの兎はどこに…?」
 魔理沙がそう言って診察室の中を見回すと、鈴仙は耳を塞ぎながらひっくり返っていた。

「ちょっと鈴仙、大丈夫?」
 永琳はさして慌てず鈴仙のところに近寄ると、彼女の首筋をトンと叩いた。

「ハッ…」
 鈴仙が目を覚ますと同時に、怪音は静かに消えていった。

「なるほど、あの音が貴方達の言う古杣の正体ってわけね…」
 永琳は頷きながら、感心したように唸った。

「なんで、師匠は大丈夫なんですか?」
 鈴仙は目を潤ませ、まだ耳を塞ぎながら尋ねる。
「丁度、人間に発音出来ないという点では似た様な音だから、ね」

 魔理沙とアリスは気を取り直したように、首を横に振って立ち上がった。

「それで、永琳さんはこの音の正体は分かったんですか?」
 アリスが言うと、永琳は珍しくニコッと笑って答えた。
「分からないわね」





◇◇◇





 魔理沙とアリスが帰った後、鈴仙は薬品の片付けを行いながら溜息をついていた。

「あら、どうしたのウドンゲ。溜息なんかついて?」
 永琳がそれに気づいて鈴仙に話しかける。

「あ、いえ…さっきの怪音騒ぎ…私だけ気絶するなんて、精進が足りないのかなぁと思って…」

 その言葉を聞いた永琳はプッと吹き出した。

「なんだ、そんな事を気にしていたの?仕方ないわよ、あなたは耳がいいから」
「はぁ、耳がいい?」
 永琳は鈴仙の耳をじっと見つめた。それはまるで身体の中を透視しているような目つきだった。

「ま、大丈夫みたいね。あなたの耳は可聴域だけじゃなくて、集音性も良すぎるから…」
「はあ…」
 鈴仙は結局いまいち納得出来ないままに、二度と怪音騒動に巻き込まれる事は無かった。





◇◇◇





「じゃあ、今日の所はこれで解散にしましょう」
 魔理沙の家の前で、探偵とその助手は一日の仕事を終えた。
 まだ日の暮れかかった夕方ではあったが、寝不足の二人にはこれ以上の活動は難しかった。

「よーし、明日こそ怪音の正体を突き止めるぜ!」
「今日、分かった事といえば音が聞こえる人と聞こえない人がいる。という事くらいかしら?」
 アリスの言葉に、魔理沙は懐から紙の切れ端を取り出して自分のメモを見る。

「そうだな、音が聞こえないのは人間や妖怪に関係がない事くらいだな」
 魔理沙はレミリアに○がつけられているメモを見て確認する。

「明日も、まだ聞き込みをしていった方が良さそうね」
「そうだな!それではまた明日、ワトスン君!」
「だから誰がワトスンよ…」

 アリスが森の中に消えていったのを見てから、魔理沙は家の扉を閉めた。
 ヘトヘトに疲れて身体が何よりも睡眠を求めている事を悟った魔理沙は、水を一杯飲んでから
 直ぐにベッドへと向かった。
「あ、薬…」
 永琳からもらったぐっすり眠れる薬を懐から取り出すも、既に眠気がピークに達していた魔理沙は
 起き上がるのも面倒になり、そのまま目を閉じた。

(また怪音で目が覚めたら、その時、飲めば…いい…か…)

 そう心の中で思いつつ魔理沙は深い眠りへと落ちていった。





◇◇◇





 翌朝、魔理沙は気持ち良く目が覚めた。たっぷりと眠ることが出来たので、疲れもスッキリ取れた。
「怪音は発生しなかったのか?まあ、どちらにせよ眠れて良かったぜ」

 朝食を取っていると、昨日の同じ時間にアリスが訪ねてきた。

「おはよう、魔理沙。今朝は良く眠れたようね?」
「ああ、お前も大丈夫だったみたいだな」

 二人共、疲れでぐっすり寝た為に昨晩は怪音がやってきたのか否かは分からなかった。
 しかし二人とも体力を回復した事で、調査に対するモチベーションは上がりきっていた。

「よーし!それじゃあ今日は怪しいヤツの所に行こうぜ」
「昨日は怪しい所で、今日は怪しいヤツってわけね?」

 こうして、名探偵魔理沙と名助手アリスの聞き込み調査は2日目を迎えた。





◇◇◇





「あやや…それで私の所に来たのですか?心外ですねぇ…」

 第一容疑者として魔理沙が選んだのは、鴉天狗の射命丸文だった。
 偶然、空を飛んでいるのを見つけたので容疑者にしたのでは?というアリスのツッコミを魔理沙はスルーした。

 射命丸は一通りの顛末を聞くと、自分が怪しいと思われた事に不満を抱きながらも興味は持ったようだ。
「その怪音の話、面白そうですね。私は現時点では何も知らないので情報提供は出来ませんが…
 早速、私の方でも取材を始めましょう。集めた情報は、私の新聞を見てくだされば探偵殿にもお見せ出来ますが…」

「おいおい、それはお前がただの野次馬根性で知りたいだけじゃないか?」
「でも、情報を集めるのは確かに彼女の方が得意ね・・・」
 二人はやや難色を示しながらも、射命丸がこの事件の調査をする事を了承した。

「清く正しい射命丸、その不届き者をペンの力でとっちめてやりましょう。
 ・・・しかし、ですねえ」

 射命丸は突然、いつもの愛想笑いを止めて真剣な表情になった。

「あなた達の話を聞くと、どうもあなた達の周りでしか【古杣】は姿を現さないようね?」
 そう言いつつ腰につけた天狗団扇を手に持ち、大見得を切るようにして二人を団扇で指した。

「あなた達のどっちかが、古杣の正体なんじゃないの!?」

 そう言われた二人はしばらくポカンとした後、魔理沙が気づいたようにポンと手を打った。

「そうか、言われてみればその可能性があったぜ!」
 魔理沙はそういうと、大げさに身体を反転させてアリスに向き直った。そして

 魔理沙は芝居がかった動きでアリスの事を指さすと、更に芝居がかったセリフを吐いた。

「つまり君が犯人というわけだ」

 名探偵が犯人を追い詰めるシーンさながら、アリスの表情が一瞬凍りつく。
 しかし、アリスはニヤリと笑った。

「ふふふ、助手の私がまさか【古杣】だとは思っていなかったでしょう…?」
 と、アリスは妖怪の様な凶悪な笑みを浮かべた。

「って、なんで私が自分であんな嫌な音を出さなきゃいけないのよ!」
 アリスは顔を素に戻し、ツッコんでからポカッと魔理沙の帽子の端っこをはたいた。

「それに、それだけで犯人扱いされるなら、貴方もそうでしょうが!」
「おい、怒るなよ!冗談だって」

 そんな二人のやり取りを見ながら、射命丸はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていた。
「お二人さん、私はちょっと原稿があるので直ぐには動けないのですが、原因を探るなら
 他の場所でも古杣が現れていないか、聞き込みをするのがいいかと思います」
 そうアドバイスを残して、射命丸は疾風の如き早さで妖怪の山の方角へと飛んでいった。

「あ、逃がしたぜ…」
「でもあの天狗の言うとおりね。今度は人間の里にも聞き込みにいきましょうか?」

 アリスの案を飲み、魔理沙は人間の里へと箒の先を向けた。





◇◇◇





 寺子屋の一室で二人に面会した上白沢慧音は、二人に怒りを吐き出した。

「その音なら数日前から里でも鳴り響いています。私には聞こえないのですが、里の子どもたちが特に聴こえやすいらしく
 夜も眠れないと嘆いているのです。私も原因究明に乗り出したのですが…」

 人間の里の守護者を自他共に認める慧音にとって、寺子屋に通う子どもたちに影響を与える怪音には
 殊更に憤りを感じているようだ。

「なんという事だ、私達が行った事の無い里にも怪音被害が出ていたとは…」
「あいつ、そんな事までしていたのね…」

 二人もその話を聞いて義憤に燃え上がったようだ。しかし、あくまでも探偵である事は保っていた。

「では、慧音さん…あなたはまだ原因も分からず…音もあなたには聞こえない、と…」
 魔理沙は、懐から空っぽのパイプを取り出して口に銜えた。

(ちょ、ちょっと魔理沙。貴方いつの間にそんな小道具を用意してたのよ…)
(雰囲気作りだよ。香霖の店にあったのを借りてきたんだ)
 小声で突っ込むアリスに、小声で答えた魔理沙は慧音の反応を見る。

「そうなりますね。友人にも調査を依頼したのですが、夜は里の上空を何匹かの妖怪が飛んでいるだけで、
 見たことのない妖怪は居なかったそうです…」

 それを聞いた魔理沙は突然に立ち上がると、パイプを左手で持ち、右手を慧音に向けて広げた。
「分かったぞ…!つまり、君が犯人だな!?」

 しばらく、部屋に静寂が流れて冷たい空気が満ちた。

「…ふざけているのか?」
 慧音は今までの柔和な言葉遣いから一転して、鋭い目付きで魔理沙を睨んだ。

「ちょ、っと!何言ってんのよ魔理沙!」
 アリスも青い顔をして、ポーズを決めたままの魔理沙の身体をゆさゆさと揺する。

「いやぁ…とりあえず、みんな犯人扱いしてみれば正直に白状するヤツがいるかもしれんと思って…」
 魔理沙はパイプを懐に戻して頭をポリポリと掻いた。

「ふっ…まあいい。とりあえず私は犯人ではないよ。といっても、犯人だと自白するヤツもいないとは思うがね」
 慧音の落ち着いた声を聞いてアリスもホッと一息ついた。

「私はあまり里を離れられないから、引き続き調査を頼むよ。探偵さん」
「ああ、任しておけ。必ず引っ捕えてやるぜ」
「…そうね、子ども達が可哀相だわ…」

 二人は決意も新たに、探偵ごっこへの意欲が更に湧いてきた。





◇◇◇





「その音なら聞きましたよ!でも、あんなに五月蝿かったのに…八坂様と諏訪子様は聞こえなかったと仰ってましたね」

 東風谷早苗の証言を取り終えた二人は、顔を見合わせる。

「じゃあ、一応…」
 魔理沙はそう前置きしてから、懐のパイプを取り出して口に銜える。

「という事は…君が犯人ということか!」
 魔理沙はビシッと早苗を指さした。隣でアリスが口に手を当てて、まさか…と絶句した。

「ふふふ、バレてしまいましたか。そう、私が犯人…ってなんでそうなるんですか」
 早苗は軽くノリながらも、直ぐに否定して呆れ返った顔をする。

「うーむ、この方法じゃあ…誰がノリのいい奴かって事しか分からんな」
「…私も乗っかるのに疲れてきたわ…」
 二人はそういいながら、守矢神社を後にした。

「あ、ちょっと!お賽銭くらい入れてって下さいよ!…あ〜あ、行っちゃった」
 早苗が再び境内の掃除を始めると、神社の鳥居からカラスが数羽飛び立ったのが目に付いた。

「…そういえば…あの音が聞こえてきた時は、夜だっていうのにカラスの鳴き声が五月蝿かったなあ…」
 早苗の独り言は、誰に聞かれるとも無く涼風に流されて消えていった。





◇◇◇





 守矢神社からの帰りに二人は偶然、射命丸に再び遭遇した。

「おう、ブン屋じゃないか。何か進展はあったかい?」
 魔理沙が聞くと、射命丸は面倒臭そうにネタ帳をパラパラ捲り始めた。

「うーん、そうですねえ。山の妖怪が何人かその音を聞いたって事くらいですかねえ?これがその取材リストです」

 射命丸は、リストを書き写した紙をアリスに手渡した。アリスがその紙を読み上げると
 リストにはどの妖怪が聞こえて、どの妖怪が聞こえなかったかが羅列されているようであった。

「ふーん、ありがとうよ。…じゃあ、一応…」
「えっ、彼女にもやるの…?」
 アリスの静止する声を無視して、魔理沙は懐からパイプを取り出し、咳払いをした。

「ふっ、協力する振りをしても私の目は誤魔化せんぞ…実は、君が犯人だな!」
 魔理沙に向けられた指先を見つめて、惚けたような顔をした射命丸はひとつ頷くと、こう言った。

「ええ、良く分かりましたね。私が古杣の正体です」
 それだけ言うと、射命丸は踵を返して妖怪の山にすっ飛んでいった。

『え…?』
 魔理沙とアリスの声が重なり、射命丸の飛んでいった方角を二人でしばらく眺めた。

「た、多分…冗談よ。放っておきましょう」
「そ、そうだな。天狗の言う事を真に受けてちゃ生きていけないぜ?」
 射命丸の【自白】に動揺しながらも、日が暮れたので二人は家に帰る事にした。





◇◇◇





 次の日の朝、魔理沙はアリスの訪問を待つ間に、今日の聞き込み場所を考えていた。
「なんとなく、天狗の言っていた事は無視しちゃならん気がするぜ。…確かめる必要があるな…」

 そしてやって来たアリスに説明した魔理沙の案はこうだ。
 射命丸が普段寄りつかない、寄りつけない場所で聞き込みを行い、怪音が発生したか確かめる。
 それでもし怪音の情報があったとしたら、射命丸の自白はただの戯言だったと証明されるわけだ。

「それは、いい案かもしれないわね。それで、何処に行くの?」
「地下の旧地獄だ」
 魔理沙は地面を指さしながら説明する。旧地獄には地上の妖怪は行ってはならないし、
 射命丸は鬼が苦手なので、わざわざ鬼がいる地下にまで怪音を発生させには行かないだろうという考えだ。

「確かに、それで証明は出来るかも知れないわね。でも、私はパスね。私だって地下にはいけないし、…行きたくないわ」
「え、じゃあ私に一人で行けっていうのか?前みたいに通信機は無いんだぜ?」

 アリスは、少し思案すると一つの妙案を思いついた。

「それじゃあ、今日は別行動にしましょう。私は命蓮寺の皆さんに聞き込みに行くわ
 その間に貴方は地下に聞き込みに行ってきて」
「うむ、別行動も助手の大事な仕事の一つだな。アリス君、一つ頼んだよ」
 魔理沙は納得し、早速地下に向かって飛んでいった。アリスも、それを見送ってから里の近くの寺へ向かった。





◇◇◇





「さぁて、私もサクッと目的地まで行きたいんだが…」
 地下への入り口で、如何に迅速に地下へ潜り込むかを考えていた魔理沙に、後ろから声がかかった。

「あら、人形使いのシーフさん。こんなところで何をしてるの?」
 背後から唐突に現れた存在に対して魔理沙は肝を冷やしたが、今の自分に一番必要な人物が現れた事に内心喜んだ。

「おお、こいしじゃないか。何、お前の家に遊びに行こうとしたんだが…ほら、蜘蛛とか鬼に絡まれたら厄介だろ?
 だから躊躇していたんだよ」
「なんだ、そんな事。私に付いて来れば問題ないわ〜」

 こうして、無意識を操る古明地こいしを上手く使って、魔理沙は難なく地下深くにある地霊殿へと潜り込む事が出来た。

「じゃあ、何して遊ぶ?私の怨霊コレクションでも見ながら…」
「ああ、すまんが…ちょっとお姉さんの方に用があるんだ」
 ワクワクしているこいしを尻目に、魔理沙は地霊殿の主の姿を探し始めた。

「ええ〜ひっどーい!せっかく案内したのに〜!」
 こいしは口に手を当て、その意識をその場から消した。

「…妹を泣かせるなんて、酷い客ねえ。まあ、もっとも貴方は元から泥棒でしたか。泥棒はなんちゃらの始まりですものね」
「今は、探偵だぜ」
 こいしが消えるのと同時に、魔理沙の探していた人物が物陰から現れた。

「でだ、お前を探していたのは…」
「なるほど、心が読める私なら説明の手間が省けるからですか…」
 さとりは魔理沙の考えている事を読んで先に答え始めた。

「…そういう事。で…」
「言っておきますが、地下ではそのような音は聞こえていませんよ。私の管轄で其の様な事が起きたら、耳に入るはずですから」

「なん…だと?つまり射命丸のやつは…」
「そうですねえ、もしかしたら本当にその方が犯人なんじゃないですか?」

「…心なしか、お前怒ってな…」
「怒ってませんよ。用が済んだのでしたら、お帰り下さい」

「じ、じゃあ邪魔したぜ」
 魔理沙は背筋に冷たいものを感じて、素早く地霊殿から脱出した。





◇◇◇





「と、いうわけで射命丸のヤツが怪音事件の犯人かもしれんぜ」
 魔理沙はアリスがまだ家に帰っていなかったので、博麗神社で霊夢に事の顛末を話していた。

「ふーん、なんだか…あんたたちの捜査って意味なかったんじゃない?相手から勝手に自白したんだし」
「そ、そんな事はない…というか、天狗を懲らしめるっていう仕事が残ってるじゃないか」

 話をしていた二人の元に、一人の鬼がやってきた。相変わらず酒を呷っていたらしく、息は酒臭い。

「話は聞かせてもらったけど、あいつは犯人じゃないよ〜」
 ふらふらとした足取りながらも、伊吹萃香の言葉には鬼が持つ信憑性があった。

「おいおい、酒呑んで寝てたヤツが何を証拠に」
 魔理沙の反論に、萃香はまた酒を一口飲んで人差し指をピンと立てた。

「最初にアンタたちが、ここで騒いでたときに私は屋根の上で寝てたんだけど…
 あの時には天狗は近くにいなかったからねえ…ひっく…」

「何だと?本当だろうな?」
「ああ、だから真犯人はまだ地底に行ってないだけだと思うよ〜」
 萃香は縁側に寝そべりながら最後に付け加えた。

「それと、あの音は妖怪が出せるような音じゃないよ。多分、舎密(せいみ)が作り出す音だね」





◇◇◇





 魔理沙は今日で決着をつけるためにアリスには知らせず独断で、ある場所へやって来た。

「道具…といえば、やっぱりここだよな」
 魔理沙がやって来たのは、森の入口にある香霖堂。古道具屋である。

 その主人、森近霖之助に対して魔理沙は今までの事件のあらましを語った。
 話を聞いた霖之助は、戸棚から一個の箱を持ってきて魔理沙の前に置いた。

「さぁ名探偵マリサにヒントをあげよう。数日前にうちから、この不思議な音が出る箱を買っていった人がいるんだ」

「まさか、その箱が古杣の正体だっていうんじゃないだろうな?」
 魔理沙の言葉に、霖之助はフッと笑う。

「いや、その通りさ。この箱を2個買っていったその人は、ある調査の為に箱を買っていったようだ」

「調査って何だよ?」

「まあ、落ち着いて聞いてくれ。この箱はモスキヰトという、超高周波を出す外の世界の玩具らしい。
 この音は子供にしか聞こえないんだ。例えば僕には聞こえないけど、長寿の者でも身体は若いものや
 聴覚が優れた妖怪には聞こえるそうだ」

「それで、聞こえる人とそうでない人がいたのか。それで調査って何だよ?」
「…協力者の方は恐らく興味本位で、首謀者は恐らく…自分の研究に役立てる為じゃないかな?」
 そういって霖之助は、商品棚に陳列された首の折れた仏蘭西人形に視線を送った。

「…なんで、そこまで教えてくれたんだ?」
「隠す義理もないしね。それに…僕も昔はよく探偵ごっこをしたものでね。後輩を助けたくなったのさ」





◇◇◇





 夜、アリスの家の扉をノックする音がした。
 アリスは夕食を作る手を止めて扉に向かった。

「どなた?魔理沙かしら、悪かったわ。里に寄ったついでに買い物してて…」
 扉を開いたアリスの前に、パイプを銜えた魔理沙が立ちはだかっていた。

「アリス君…きみが射命丸文と手を組んで怪音を出していた事はバレている…」


 魔理沙は芝居がかった動きでアリスの事を指さすと、更に芝居がかったセリフを吐いた。

「つまり君が犯人というわけだ」

 名探偵が犯人を追い詰めるシーンさながら、アリスの表情が一瞬凍りつく。
 しかし、アリスはニヤリと笑った。

「確かに犯人が複数…その可能性はあるわ。でも証拠はあるの?」
 アリスは、以前とは違って大仰な演技では無く、真に迫った言い方をした。

「射命丸さんが別の人と協力してやった、もしくは…本当に古杣の仕業かもしれない」
 そういうアリスに、魔理沙がニヤリと笑った。

「やっぱりな、本当はお前…この音が聞こえないんだな」
 そういって、魔理沙は懐から香霖堂にあった箱を取り出す。
 今度は、アリスの表情が本当に凍りついた。

「へへ、やれやれ…ずっとこの音を間近で聞いてて耳が痛くなったぜ」
 魔理沙は、手元の箱についたスイッチをOFFにした。

「お前はやっぱり、聞こえるフリをしていただけなんだな?」
 魔理沙がそういうと、アリスはふぅ…と息を漏らして懐から魔理沙の物と同じ箱を取り出した。
 箱のスイッチには、人形繰りに使う細い糸が括りつけられ、先端はアリスの指貫に繋がっていた。

「私が…本当に、音が聞こえていたらどうするつもりだったの?」
「その時は、天狗を倒して吐かせるつもりだったさ」(まあ、霖之助に証言してもらえば済むけどな)

 最後に、魔理沙は意地悪く笑ってアリスに言った。
「聞こえる振りをしていたなんて、そんなに若く見られたかったのか?」
「集中すれば聞けるの!さっきの音だって聞こえてたわよ!」

 顔を真っ赤にして言い訳するアリスを見て、スイッチの壊れた箱を手にしながら魔理沙はくすりと笑った。
このSSはサスペンス風ゆるゆるストーリーとでもいえばいいのでしょうか。
15000文字の中で、無理やり話を二転三転させたような形になったと思います。
◇◇◇のところで、一旦誰が犯人か考えてから次節にいってもらえればサスペンスっぽくなるかも(笑)
読み返したら、アリスと射命丸のやり取りや演技とかに気付ける様な文章を書けていれば…嬉しいです。

文字数の問題とは、また別に意図的に説明を省いてみた部分も多いです。
キャラがどういう考えでこの言動をしたかについては読んだ方の感性に任せるというか、
そういう東方的なユルさを表現してみたかったなんて一丁前な事を言わせて下さい。
あっ、でも一つだけ一読者としての想像をすると、射命丸は面倒臭くなったので自白したんだと思います。
主犯とは元々目的が違いましたし、記事にしても面白くなさそうだったので辞めたんでしょう。捏造ですし。
後、季節柄『ダブルスポイラー』的な意味を持たせたかったです。これ書いてる時は例大祭前なんですが、
ダブスポで射命丸が地底に行って取材してたら、この話の地底の件は全部いらなくなるなあ(笑)

皆さんの感想を頂ければそれを糧にして反省点や改善点を見出して次の作品を作れる気がするので、遠慮せずに忌憚のない評価をしてやってください。


では、後書きも読んで下さった方にありがとうございました〜!

4月4日追記:
発表を終えて…皆様、閲覧とご感想ありがとうございます。
今回のコンペで初めてSSを書いたのですが、短い中で表現しきる事の難しさを感じました!
そして、読んでもらって感想をもらうのも楽しいですね〜!感想の返事は少しずつやります!
それでは、これからも精進していきたいと思います〜。
yunta
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/03/10 01:35:34
更新日時:
2010/04/04 00:22:51
評価:
13/14
POINT:
59
SPPOINT:
61
Rate:
1.20
1. 通常ポイント3点 お題ポイント8 ■2010/03/21 02:25:10
モスキート音という発想は凄い。羨ましい。
だがしかし、冒頭に持ってきているシーンがあまり重要じゃなかったってのはちょっと肩透かし感があった。
まぁ、伏線っちゃ伏線なのかも知れないのだけれど……。
キャラが一杯でてきて楽しかったかな。
2. 通常ポイント6点 お題ポイント5 藤田 ■2010/03/21 09:25:31
やっぱりモスキート音だったかぁ……。永琳の下りで気付きました。ただ、野暮なことを言わせていただくとアリスの年齢って見た目相応と何処かに書かれていた気がするので、聞こえてもおかしくないんじゃないかなと……。

ストーリはしっかりとした起伏があって良かったと思います。文章の中で三点リーダの表記揺れがあったのが気になりました。
それから魔理沙の口調でしょうか。ぜ、ぜ、ぜ、と、些か使いすぎではないかなと。
3. 通常ポイント3点 お題ポイント7 ワタシ ■2010/03/22 23:23:29
霖之助の情報を早い段階で出すか、アリスが若く見られたかったと示唆する要素がないと
ラストの座りがどうにも弱かったです。
短編なので出すキャラを絞って霊夢・慧音・射命丸・霖之助をサブに
主犯であったアリスの描写をより鮮明にした方が話としてのまとまりはよくなると思います。
音をこういう風に使うのは他になく面白かったので、お題ポイントは高めに。
4. 通常ポイント3点 お題ポイント2 じろー ■2010/03/23 21:14:31
お題の使い方に無理やり感をすこし感じてしまいました。特に冒頭の部分、後の方でも同じところがありましたが、最初に持ってくることで、逆にあざとさを感じてしまいました。

内容的な話になりますが、アリスの動機が少し弱い気がしました。
またモスキート音を出すおもちゃに関して、そんなに強い音がでるか(耳を押さえて悶えるくらい)という点が引っかかりました。
不快は不快でしょうけど、描写にあるほどの音だろうか…それこそ古杣へのミスリードを誘うものかもしれませんが、種明かしをされた時に感じた、心のわだかまりが解消されませんでした。題材は素敵でしたが、オチが弱い気がします。
5. 通常ポイント8点 お題ポイント8 名前が無い程度の能力 ■2010/03/28 22:50:34
短い文章に二転三転の展開。謎を追いかける楽しさと二人のやりとり、堪能させてもらいました
冒頭の台詞の使い方もうまい。
あれ?違うのか、と思い改めて犯人を考えてしまいました。
6. 通常ポイント3点 お題ポイント4 ぶるり ■2010/04/01 17:46:19
 文字数制限のせいか、急転直下、突然の場面転換が多かったのは確か。
 少々プロットに振り回されてる気がします。
 それに、サスペンス独特のオチを噛みしめる感覚は得られなかったです。
 あまり高い点数は付けられませんが、プロット自体は中々面白かったのでこの点数。

 お題に関して。
 音をメインテーマにしたプロットを組み、また探偵ごっこでの「きみ」という言葉も中々印象的に使えていたように思えます。
 ですが、「くすり」の使い方は微妙に感じます。
7. 通常ポイント4点 お題ポイント3 静かな部屋 ■2010/04/02 11:43:21
【内容のこと】
 アリスの調査というのは、
「結局このモスキヰトとやらは誰に聞こえて誰に聞こえないのか?」
ということですかね?ちょっと動機がわかりにくいかな、
と思いました。ラストは良かったです。何か、推理小説とかドラマみたいで。
 後気になったのは、アリスがレミリアを呼ぶ口調ですかね……まあ本家で一度も呼んでいないので、僕が勝手に気になってるだけですが、そんなに他人行儀かなあ?「レミリアさん」と呼ぶほど。
【お題のこと】
「くすり」僕には、どこで使っていたのかわかりませんでした……
「音」これは、全体の主題であるモスキヰト音ですね、後半まで正体がわからないあたり、うまく使えていると思います。
「きみ」ょうな音として使っているんですかね?あ、「つまり君が犯人というわけだ」などの台詞で使ってるのか。それなら、中盤から少々多用しすぎのような気も……。
8. 通常ポイント2点 お題ポイント4 八重結界 ■2010/04/02 13:20:12
何故、魔理沙はアリスを犯人だと思ったのか。どうして音が聞こえないと分かったのか。
その辺りの説明が不足していて、何とも納得できない終わり方でした。
9. 通常ポイント7点 お題ポイント4 飛び入り魚 ■2010/04/02 21:52:34
 ナイスオチ! これでこそ推理物。
 探偵ごっこをする魔理沙、どこか似合ってるなあ。
 動機までもう一歩踏み込めればということろ。
10. 通常ポイント2点 お題ポイント2 時計屋 ■2010/04/02 21:54:15
作者様が後書きで述べられている通り、展開がかなり強引なように感じました。
プチで書くにしては、プロットが長すぎたのではないでしょうか?
11. 通常ポイント7点 お題ポイント6 Ministery ■2010/04/02 22:02:06
これがぷちだって……じょ、冗談じゃ(ry
いやいや読み応え充分でした。
特に最後の魔理沙がいい味出していますね。
12. 通常ポイント5点 お題ポイント3 K.M ■2010/04/02 22:26:24
女性の一年は地球より重い、とは誰の言葉だったか。
この動機は最後の最後まで思いつきませんでしたね。
13. 通常ポイント6点 お題ポイント5 文鎮 ■2010/04/02 23:24:47
少し展開が慌しく、共犯者である文の行動もどこか違和感が感じられました。
でも、ストーリーは面白かったです。犯人の誘導もありますが、原理を解明できない外の科学が妖怪扱いされるのも納得です。
私もモスキート音が聞こえるといいなぁ……
14. フリーレス yunta ■2010/04/04 17:00:44
感想、評価ありがとうございます。コメント返しです。


絹さん
冒頭のシーンは、いきなり犯人と暴露して中盤で否定しておいて結局は…という使い方にしたかったのですが、
やはり薄かったですかね〜。オチにでも使えれば、また違った効果が出たのかな。

藤田さん
永琳の所とかは説明しすぎかな…と自分でも思いましたが、やはり分かりますか〜。
アリスが聞こえなかったのは、年齢というより人形任せにして運動不足=身体能力の低下みたいなイメージから設定しました。
やはり、違和感を持たれてしまったのは反省です。表記についても、校正しっかりしたいと思います!
魔理沙の口調は、結構気を使ったのですが…まだまだ客観的に文章を直せて無かったですね、勉強します!

ワタシさん
アリスに対しての「若く〜」は魔理沙の皮肉みたいなものなので、実際に彼女がそう思っていたわけではないです。
ですが、話にまとまりがなかったのはご指摘の通りですね。短編に合った書き方を勉強していきたいと思います!

じろーさん
お題の使い方やオチが上手く書けなかったのは反省です…。冒頭の文章の使い方も考えたいと思います。
あと、箱っていうのは霖之助の解釈でおもちゃという言い方をしていますが、能力で知った名前が商品名のモスキートなので、
若者のたむろ防止装置の事を示唆したつもりでした。でも、描写が大げさすぎたかもしれませんね…。

ぶるりさん
プロットに振り回されたというご指摘は、まさしくその通りだと思います。それがオチの弱さにも繋がったと感じています。
お題に関しては少し自信が無かったので評価して頂いてありがたいです!

静かな部屋さん
アリスの調査は、人形造りの為に人体の調査(人妖問わず)をしたいが為に可聴域について調べたい…といったつもりでした。
確かに、説明が入れられなかったので分かりづらかったですね…。
アリスからレミリアへの口調は、難しかったです。地霊殿でのこいし戦後の会話あたりから、かなり他人行儀なイメージになっていたので…。
『くすり』に関しては、永琳からもらった薬とみせかけての笑い方の『くすり』という使い方で、今までニヤリと笑っていたのが、
最後の最後でくすりになった事で、二人の探偵ごっこは終わったよ。という事を表現したつもりでした。
音に関してはその通りです!きみは魔理沙の台詞だけの意味ですね、お題だからと思ってちょっと使いすぎでしたかね…。

八重結界さん
説明不足でしたね、反省です。
霖之助が「彼女の目的」といって人形に目をやったので、魔理沙は理解できた…というつもりでした。
アリスが完全な自立人形を目指している事は魔理沙も知っているのかなあ、と思っていましたので…。
音に関しては、魔理沙が言った通りにハッタリです。これでアリスが聞こえてなくても霖之助から証言を取るか
射命丸を捕まえてきてアリスに嫌味の一つでもいうつもりだった。という感じです。
まあ、魔理沙は推理も何も無く霖之助に全部教えてもらったという…

飛び入り魚さん
私も書いていて魔理沙に探偵って合うなぁと思いました!
動機に関してはもっと説明できれば良かったと思います。絞り込むところを間違えたかな〜

時計屋さん
そうですね、プロットが長すぎたというのが…。プチコンペ用の書き方を学びたいと思います!

Ministeryさん
ギリギリ15000字まで粘りました!魔理沙は書いていて楽しいキャラだったので嬉しいです。

K.Mさん
もっと動機とか詳しく書きたかったですね。慌てて畳んでしまいました…。
魔理沙とアリスもそういう皮肉を言い合う程度には仲がいいと思います。

文鎮さん
展開が慌ただしいという点は、ご指摘の通りですね…。結果、各キャラの行動が突飛になりすぎたと思います。
外の世界から来たものに対する幻想郷の人たちの反応は考えると楽しいですね!
実際、モスキート音聞いたことないんですが…私も聞こえるのかな〜…
名前 メール
評価 通常ポイント
お題ポイント
パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード