ベストセレクション
2010/02/14 連作:影の手ざわり 20首
ぺらぺらの高層ビルから飛び出したやがてかなしき国を集めて
街じゅうの悪夢の夢の夢を見て道具を殺しやさしい宇宙
いくつものとがった影の手ざわりを見ている冬の模型の中に
意味のない理想主義者に近づけば何も言わない日々に似ている
たのしみの向こうから猫 退屈な嘘を見ている銀の戦争
永遠の壊れたままの国を知る流行り言葉を大切にする
罪かしら 青い言葉を確かめて嘘の挫折を奪ってしまう
少年は自分自身の家の中 世俗の傷を待つ夜の音
真実に恋して夏の切れ味は自分自身の匂いを殺し
あの夏の銀河の謎の夢を見て地層の先に見知らぬ五月
初恋になって宇宙を見ていたら忘れられないただの八月
意味のないあなたの過去にあこがれる誰かとともに深紅の九月
真っ白なわたしの影の恋人を見ているただの詩人のそばで
口づけのことを知らずに意味のないノートの風でさえも永遠
混沌になったやさしいゆりかごは映画のような恋人の死よ
肉体の終わりでさえも凛として無言の音を守りたい死者
死者なのに冬の香りに気づかずに恋の宇宙につつみこまれる
うつくしい待ちくたびれた風なのだ 一週間を眺めていたら
きえてゆくかなしい夢の口づけと一緒に青い聖夜の底で
ゆりかごのような瞳を見ています 何も言わない雪の約束
2010/02/07 連作:おそれて眠る 20首
気の毒な手紙のようなおととしの体の影に似ている四月
神さまが足りない風の罪人を拾い上げればまぶしげな猫
情熱の言葉でさえもとけてゆく五月の群れを愛した女王
あたらしい街という名の失敗はみにくい僕を失いそうだ
まぶしげな日々をおそれて爆発は小さな時を奪ってしまう
音楽が好きです さめた現実は蛍光灯の視線の底に
運命をなぞる短歌をあきらめて空一面の夏の直線
真っ暗な入道雲を見るときの人それぞれの僕が広がる
五線譜をなくしてしまう気の毒な宇宙の歌の前にかなしみ
現実の香りの底できえてゆくかすかな嘘に気づかずに愛
退屈な過去になるまで初恋は無限の夢を見送っている
現実に追われてただのたましいは理想主義者の銀河と出会う
永遠のパラドックスにあこがれる繰り返される時がほしくて
野良犬をたどってゆけばふわふわの匂いの闇でしょうか なわとび
めずらしい松ぼっくりを守りたい映画のような夢が好きです
風景がほしくてさめたかたむきになって真冬のひきだしのまま
真っ白な重力みたい 鳥かごでさえもあかるい草原なのに
気の毒なみにくい死者の永遠がほしくて雪の図形の下に
ゆらめきを見ないで冬のいらだちをのぞきこんだら街じゅうの猫
とけてゆく無言の国のかなしみをおそれて眠るすべての底に
2010/01/30 連作:冬のゆびさき 20首
約束は悲劇の魚 きえてゆく水平線の底ではすべて
緊張に恋して夜の少年のごとくまばゆい曲線でした
永遠の手ざわりを持ついいわけでしょうか 狂った幾何学ですか
沈黙のあいだに雪の口づけが終わってしまうふわふわの国
ふわふわの胸を集めて思春期はわずかな過去につつまれている
うつろいの陰で銀河にあこがれた神経質な銀の姫君
風景を見ている白いほほえみは生命線の未来に向かう
誇張した現実感にあこがれる空の砂漠の向こうから犬
横顔を見送っているあたたかい詩人の道のようなまなざし
さかさまの夢を集めて現実はあかるい毒に隠されている
やせこけた戦争の中 少年を殺しわずかないいわけを持つ
うつくしいあふれるほどの骨でしょう? おとぎ話を愛し続ける
ゆらめきの先に四月に教わったまだら模様の夏の曲線
とくべつな紫色の歌のよう 十一月をおぼえていよう
約束に追われて冬のゆびさきに恋をしている透明な僕
鳥かごと一緒に眠る恋人を見つめていたらやわらかな風
あたたかいワインボトルをあきらめて残りわずかな日々を愛した
凛として十一月にあこがれる空の記憶が多すぎる国
僕だけの曲線だろう うつろいが好きだ 小さな結末として
表面は星野しずるの僕なのにやさしい歌を忘れたい 謎
